下書き うつ病勉強会#139 うつ病と睡眠障害と治療-1

睡眠障害はうつ病の症候であると同時に予兆・リスク要因であり、また抗うつ薬療法の副作用であり、患者により様々な様式で出現する。

うつ病→睡眠障害(不眠も過眠もある)

従来、メラコンリーなど定型的な内因性うつ病では早朝覚醒が特徴的であるとされてきたが、最近の操作型診断基準によるうつ病患者の不眠では、やや異なった特徴が認められる。
不眠を伴った大うつ病外来患者の調査によれば、不眠のタイプ別では、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒がそれぞれ1/3を占め、一部の患者ではこれら3タイプの不眠がすべて認められた。
睡眠障害患者では「精神疾患に起因する睡眠障害」の頻度が最も高く、次いで原発性不眠症であった。

睡眠障害→うつ病

不眠症患者に最も高頻度で認められる精神疾患はうつ病である。
米国のある地域住民の調査から10%程度が持続性の不眠症状を訴え、その40%が何らかの精神疾患を合併し、その内訳として1/5が気分障害であった。
別の調査では不眠症患者の35%が精神疾患を有し、さらにその半数は気分障害であった。
持続する不眠を訴える患者では、うつ病を合併している可能性を疑う必要がある。

REM睡眠とうつ病

うつ病患者の睡眠特徴として、睡眠効率の低下、徐波睡眠の減少、REM潜時の短縮、 REM睡眠増加などが挙げられる。とりわけREM活動の亢進は、多くの古典的抗うつ薬がREM睡眠を抑制し、REM潜時を延長させること、REM断眠が抗うつ効果を発揮することなどから、うつ病の病因に強い関連性をもった所見であると考えられてきた。うつ病の睡眠特徴と臨床症状との問には相関関係があり、REM活動が活発なほど(NREM睡眠が短いほど、深睡眠が少ないほど)、うつ症状が重篤であった。

残遺症状

うつ病の治療の際には、「寛解」が1つの目標になる。一般的には、17項目ハミルトンうつ病評価スケール(HAM-D)7点以下の状態が2週間以上6カ月未満持続した場合を「寛解」と定義し、「回復」は「寛解」が6カ月以上持続した場合と定義されることが多い。
既存の抗うつ薬は明らかな臨床効果を発揮するものの、うつ病の完治を服用患者の大部分で期待できるほど優れた薬物ではなく、治療を受けた多くのうつ病患者が残遺症状を抱えているという現実がある。

実際、抗うつ薬の服用により患者の1/3は寛解に至るが、1/3は部分寛解にとどまり、1/3は抗うつ薬に反応しない。

薬物療法では抑うつ症状を軽減させることは可能であるものの、うつ病を根治させることは容易ではない。たとえ寛解に至ったとしても、これは無症候と同義ではなく、真の回復とは異なる。
抗うつ薬に反応して寛解状態に至ったケースでも、全般不安、心気、焦燥などの残遺症状がしばしば認められ、残遺症状が全くなかったのは服用患者のわずか12.2%のみであった。
残遺症状はうつ病患者の予後を悪化させる大きな要因である。残遺症状は大うつ病の再発や再燃に関連する。
残遺症状のあるうつ病患者の再発頻度は、完全寛解者(無症状者)のそれの3~6倍高い。
大うつ病入院患者を対象とした調査では、寛解時に残遺症状のあった群では再発率が76%であったのに対して、残遺症状がなかった群では25%であった。

睡眠障害はうつ病の発症・再発の予測因子である

不眠はうつ病患者における最も一般的な残遺症状である。
うつ病診療において患者の睡眠状態を注意深く観察することによって、うつ病の発症や再発を予見できるかもしれない。睡眠障害はうつ病の予兆として発症・再発に先だって出現する。
ある調査研究によれば、調査開始時点と1年後の追跡調査時の両者で不眠を有していた群(持続不眠群)では、良眠群に比較してうつ病への罹患リスクが40倍ほども高かった。逆に、調査開始時点で不眠があっても調査期間中に不眠が解消した群では、うつ病罹患リスクは良眠群と同等程度に低かった。このことは、不眠治療がうつ病発症の抑止に有効であることを示している。
調査開始時点でのインタビューで不眠の履歴が確認された者は、履歴のない者に比較してその後3年間でのうつ病の罹患リスクが4倍高かった。
入眠時刻が遅延している患者では、そうでない者に比較して再発リスクが2倍高かった。また不眠は治療抵抗性のサインであったり、自殺のリスクを高めている可能性も指摘されている。

うつ病と睡眠障害の併発時の治療

多くの古典的抗うつ薬はREM睡眠を抑制し、REM潜時を延長する。このことから、抗うつ薬のREM抑制作用は効果発現の作用機序の一端を占めると考えられた時期もあった。その後に登場した新規の抗うつ薬はREM睡眠への作用は乏しいものも多い。うつ病の不眠は、主としてセロトニン(5-HT)2受容体刺激から生じると考えられている。各抗うつ薬が有する深睡眠増加作用や副作用としての不眠も、5-HT2受容体への親和性から解釈できる場合が多い。
ブプロピオン(Bupropion)はREM睡眠を増加させる。

SSRI、SNRI、ミルタザピンではREM睡眠を抑制する。
MAOIsはREM睡眠を著しく抑制する。
持続する不眠は患者にとって耐え難いものであるため、うつ病に合併した不眠に対して早期に治療介入し、良質な睡眠を維持することは、うつ病患者の日中の機能を回復させ、QOLを著しく向上させる。さらに不眠の改善は、主観的な苦痛を緩和するのみならずうつ病の再発を予防する一助となる。
睡眠改善薬を併用していたのはパロキセチン服用者の41。7%、セルトラリン服用者の35。 8%、フルオキセチン服用者の33。1%であった。このようにSSRI服用患者の相当数が睡眠改善薬を服用している背景には、合併症または残遺症状としての不眠の存在がある。
うつ病に伴う睡眠障害の治療には、基軸となる抗うつ薬に加えて、睡眠薬、抗けいれん薬、抗ヒスタミン薬、鎮静系抗うつ薬(トラゾドン、少量の三環系)などが選択肢となる。
不眠が強いうつ病には、しばしばトラゾドンが併用される。
うつ病に合併した不眠、残遺不眠に対する薬物療法エビデンスとしては、ロルメタゾパム、ゾルピデム、ロラゼパム、エスゾピクロン、ミルタザピンなどに関するものがある。

以上が睡眠とうつ病の考察の入り口である。睡眠障害が原因となってうつ病になる場合もあるのかもしれないし、睡眠障害が誘因とか付加的原因となっている場合もある。また逆方向でうつ病が原因で睡眠障害が起こることもある。

この事情はうつ病と食欲変化と似ていることは似ている。うつ病では多くは食欲減退する、そして体重減少する。少しの割合で食欲増加し肥満になる。この部分の説明が難しい。うつ病の治療後期になって残遺状態が長引いて体を動かすのが億劫になり、肥満となり、高血圧や糖尿病になり、という経路はわかりやすい。

食欲低下に対応するのは睡眠過剰だと思うので、ここがおかしい。内因性うつ病では従来、食欲低下と不眠がセットになっている。

Sick behavior の説にあるように、うつ病ではまず脳の修復が第一なのだから、食事も控えて消化機能も一段落として運転し、性機能も一旦は休止し、ということなので、無駄に起きていないでたくさん眠るのが合理的だと思う。敵が襲ってくるかもしれないから眠れないとの事情もあるだろうけれども、人間にとっての一番の敵は同じ人間である。

不眠といっても、眠れない場合もあるが、睡眠時間がずれて昼夜逆転になったり、睡眠と覚醒が一定せずバラバラになったりすることが多い。昼に深く寝ていたら敵に襲われそうだと思うがどうだろうか。もともと夜行性で、本来活動している時間帯に起きているのだというのかもしれないが、メラトニン系の活動を見れば、やはり朝に起きて夜に寝るのが大半ではないかと思う。

食欲低下・体重減少の時期があって、その後食欲増加・運動不足・体重増加の時期が来て、それに続いて生活習慣病になるとかの話はまあまあ分かりやすい。しかし睡眠については矛盾が多い。

冬眠の話で説明できるのも一部のうつ病についてあるが、冬眠というのだから眠くなるだろう。

従って、私としては、睡眠過剰・食欲減退がセットで、これが一番自然なうつ状態だと思うのだ。そして人間の脳の何かの特殊性があって、不眠・食欲減退のセットになっている。この何かの特殊性が働いているので、不眠が続くと、うつ病になりやすくなるのだと思う。その特殊性の一部はREM睡眠の増加なのだろうと思うが、REM睡眠とうつ病がどう結びついているのかについて、メカニズムの説明はまだ思いつかない。夢をいっぱい見て、脳特有の活動が活発になっているということなんだよね。だから、現実とは少しずれたところの、脳内の世界が展開されて、そこでうつ病が悪化しているのだと思う。だからたくさん寝たら危ないというので、体はそれを学習して、なるべく寝ないようにしているのかなと思うが、しかしその分、昼にしっかりまたはうとうとと寝ている人が多いので、脳内の悪いプロセスはその時間に進行するのだから、うまく説明できない。

夜に寝るということが毒で、昼に寝るということは毒ではないのかもしれない。

夜に寝ないといっても、昼みたいに活動するわけではない。昼にも体はだるくてうとうとしているので、全体としてはよく休養を取っていると言えるのかもしれない。不眠ではなく、昼の活動抑制と考えれば、合理的な選択である。

しかしまた、集団生活をしているのだから、昼に活動できなくて夜に起きているのも不都合だろう。動かない分、けがは少ないだろうが、危険から逃げることができない。昼に食料を確保できないので、食べるわけにもいかないから、結果として食欲減退でちょうどいいとも考えられないか。

メラトニンのリズムなどと関係して感情のリズムが変動するのだろうか。

ブプロピオン(Bupropion)はREM睡眠を増加させるという点も説明が難しい。SNRIはREM抑制的、SSRIはREM非抑制的などとも言われるが、個人的にはSSRIは全般に眠くなるように感じている。学者さんはSSRIが原因となって不眠になることもあるというけれども、そしてそれも根拠として、SSRIは眠前ではなく朝に投与するのがよいともいうのだけれども、実感と少し違う。

夜に寝て朝起きると最悪の気分で、夜になってやっと気分が少し落ち着くというのが内因性うつ病なのだから、そしてそれは私は修復過程だと理解しているので、例えば、危険の分散と考えることはできるかもしれない。夜に寝ると最悪のプロセスになるので、それを阻止するために夜は起きていて、昼に寝たほうがいいのだろう。そのプロセスの本態は分からない。

火事が起きて、焼け跡となり、修復過程が始まると、夜に寝ると何か最悪のことが起きるらしい。

ところが、睡眠導入剤などを使って眠ってもらうと、内因性うつ病の朝の気分の悪さが緩和される。REM睡眠を抑制する薬剤も使うとなおよい。なぜかはよく分からないが、そんな感覚はある。

やはり夢に関係する何かの脳の活動なのだろう。日中の活動から得られた体験を整理して収納しておく作業と言われたりする。だから勉強する人はよく眠らないと、学習内容の整理整頓ができない。

火事の後の修復作業として、生まれた時から火事の時まで、遺伝子のなかの設計図に従ってプランAで来たところが、火事になってしまったので、修復はプランBに従うなどとできたらとてもいいのかもしれないが、遺伝子はそんなに器用だろうか。器用なのかもしれないが、可能性としては、再度同じようにプランAで修復するのではないか。その遺伝子はプランAの、その環境との適合性をテストしているのだから。人間の脳のテンプレートはそんな感じだろうと思う。同じことを何度でも繰り返す傾向がある。うつ病の再発頻度を考えれば多分そうなのだろう。

しかし再度プランAが再生するとなれば、穏やかではない。環境はすぐには変わらないのだから、また苦しみが繰り返されるのではないか。

不眠はひょっとしたら、修復によってプランAが再現されてしまうことを阻止しようとしているのかもしれない。睡眠導入剤とREM抑制系薬剤でよく眠ることは、実はプランAの再現を手伝っているのかもしれない。プランBが発動して別の人間になるためには不眠を続けて、修復活動を適切なくらいに妨害しないとうまくいかないのかもしれない。

また別の面でいえば、健常者の場合にも徹夜や断眠で軽躁状態になったりするので、不眠はうつに対しての生体の修復反応と言えるのかもしれない。(こう書くと躁とうつを反対のように考えるのは間違いだと発言した手前、すこし困るのだけれど。)断眠療法もあったし、持続睡眠療法もあった。これもどう説明されるものだろう。

このような推測を書き連ねても仕方がないので終わりにするが、内因性うつ病と睡眠はなにか深い複雑な関係にあるらしいと思う。