下書き うつ病勉強会#144 双極スペクトラム

精神科診断においては、カテゴリー診断とディメンジョン診断についての長所や短所が長く論じられている。現時点でのわれわれの診断方法は主としてカテゴリー診断によっている。

うつ病の診断を例に挙げよう。ある程度熟達した精神科医であれば、うつ病の典型的な症状の集合からなる理念的なうつ病患者を想定することができる。これはうつ病というひとつのカテゴリーである。それに現実の患者が当てはまればうつ病であると診断する。
一方、ディメンジョン診断では、精神症状のなかから鍵となるいくつかの項目を抽出し、それぞれの評価点で患者を診断することになる。1例として精神運動抑制の強いうつ病患者をこの方法で診断すると、「抑うつ気分が(5点満点中)2点、精神運動抑制が4点、妄想が1点、不安が2点、焦燥が1点の障害」などと表されることになるであろう。したがって、このような診断からは、仮に診断のために妥当な項目が抽出されることを仮定しても、それらの羅列からは患者の全体像を想像することはむずかしい。

→全体像を想像できるように訓練が必要である。

異なる疾患それぞれの特徴を部分的に持ち、どれかひとつのカテゴリーに振り分けることが困難な事態に遭遇する場合がある。たとえば非定型精神病と定型精神病の中間型の診断はこの典型である。このような場合は、ディメンジョン診断のほうが有利である。

このような診断上のジレンマのなかから、スペクトラム概念が生まれてきた。スペクトラム概念とは、「一連の疾患が実際は複数の下部疾患からなっており、しかもそれぞれは症状あるいは原因において連続的に重なり合っている」ことを意味している。精神医学では、双極スペクトラムに限らず、強迫症スペクトラム、自閉症スペクトラム、統合失調症スペクトラムなどのスペクトラム概念がある。

双極スペクトラム概念は、経過や症状に双極性の特徴を示す患者を診断し治療する上で、有用である。しかし、この概念は気分障害のカテゴリー的診断を曖昧にさせ、過剰診断を導きやすい。双極スペクトラムの過剰診断は、気分安定薬の過剰投与をひきおこすかもしれない。「正常な気分の変動」の過剰な医学化もひきおこされてくるであろう。

→双極スペクトラムの過剰診断、気分安定薬の過剰投与、「正常な気分の変動」の過剰な医学化、これらはどれも理由のある懸念事項である。うつ病キャンペーンの時に内因性うつ病過剰診断、抗うつ薬過剰投与、正常範囲のうつの医学化が起こったことは確かなので、反省すべき点は反省して、適正な判断をする。

→過剰診断についてであるが、それは根本的には現在の診断が、過小診断だからである。それを改正して、正当な診断にするだけである。正常気分変動の医学化については、スペクトラムの正常側の部分をどのあたりで区別するかの問題であるが、区別できないとするのがスペクトラムの考え方なのだから、連続していると考えるほうがよい。医学化するかどうかは個別の症例による。

Phelps J, Ghaemi SN. The mistaken claim of bipolar ‘overdiagnosis’:solving the false positives problem for DSM-5/ICD-11. Acta PsychiatrScand 2012;126:395-401.

近年、抗てんかん薬や第2世代抗精神病薬が、「気分安定薬」として新しい適応を得つつある。この背後に双極性スペクトラム概念の拡大があるとすれば、臨床家はより慎重にこの概念の有用性を吟味すべきであろう。スペクトラム概念は、カテゴリー診断ではどちらとも診断しづらい場合に有用であるが、いくつかの原理的な問題も抱えている。

1)スペクトラム概念は診断名の境界を曖昧にする
スペクトラムの代表である虹は、7色にみえるといえばそのようにみえるし、5色といえばそうみえなくもない。境目が曖昧なのでスペクトラムなのであろうが、どこまで拡張されても境目はない。“正常”にも拡張されれば、健常人の悩みまで病気とみる過剰な医療化になる。これにより病気や異常の範囲が拡大する。また、類似した疾患にスペクトラム障害が侵入し、その疾患がいつの間にかスペクトラム概念に含まれているという事態も想定される。
→そうだとしても、それが真実なのだから、そこから出発すべきである。健常側から異常側への移行部分にはどちらもと判別しがたい中間形態が存在する。それが事実だから、そこから出発するほかはない。

2)スペクトラム概念は何をどう並べているのか
スペクトラム概念はサブタイプを軽症から重症へと順番に並べたというものではない。ではどのような規則で並んでいるのであろうか。並び方には何らかの意味があるはずである。隣り合わせのものどうしは似ていて、離れているものは類似性が低いという意味なのであろうか。あるいは逆に、症状は似ていても病因論的にあるいは治療上異種であるという意味なのであろうか。この点が明らかにされないと、恣意的に並べているにすぎないと批判することもできよう。
→それはアキスカルが悪い。考えが足りない。

3)スペクトラム概念は自動的に自らを細分化する力を内在しているかのようである
双極スペクトラム概念の提唱者の1人であるAkiskalは初期にはサブタイプが5つであったものが、次第に拡大していき、最近では認知症の双極性の特徴まで包含して、11種類にまで至っている(表1)。これはほかのスペクトラム概念の提唱者にもいえる傾向である。おそらく研究を進めれば進めるほど、細分化していきたくなるのであろう。独りよがりな概念の拡大と批判されそうである。
→まず考える素材を提供している。その中で真実有用なものを洗い出せばよいのであって、アキスカルが信用できないのと双極スペクトラムが信用できないのは話が違う。

4)スペクトラム概念は1つのポイントだけとらえて診断してしまいやすい
スペクトラム概念は診断する上で、曖昧な点がかえって使いやすいといえなくもない。スペクトラムの診断基準には、多くの包含基準があるのに対して、除外基準は少ない。診断項目の重み付けもなければ、組み合わせの数の根拠もない。したがって、1つのポイントだけとらえて診断してしまいやすい。診断上の使いやすさや有用性を強調すると、診断の妥当性や治療上の有用性を犠牲にすることにならないであろうか。
→1つのポイントだけとらえて診断してしまいやすいとは思わない。多くの情報が得られるのだからそれでよい。

5)DSM-IVの併存症(comorbidity)概念との関連が不明である
もし現在のDSM-IVの診断システムに、スペクトラム概念を持ち込むとすれば、DSM-IVの併存症概念も整理しておかなければならないであろう。実際に双極スペクトラムとされる患者には、不安障害、パーソナリティ障害、物質乱用など多くの併存症があることが知られている。併存症の症状のいくつかは双極スペクトラムの症状と一致し、両者は重なり合っているようにもみえる。併存症をディメンジョンの一部と考えて、カテゴリー診断と併用することによって、さらに診断が整理されるはずであると主張する研究者もいるが、概念の混乱を来すだけとも批判できよう。
→概念の純粋性保持が目的ではない。現実に即した疾病概念を考えたほうがよいに決まっているだろう。カテゴリー診断は「補助線」「理念型」「外挿型」である。ディメンジョン診断は現実に観察したそれぞれの項目を並べて記録するのであって、本来そのほうが客観的である。記述できる範囲ではディメンジョン診断が正しい。

1)双極スペクトラム概念の誕生
双極スペクトラムの概念は、主に次の3人の研究者から提唱されている。Ghaemi、S.N.、チューリッヒの精神科疫学調査の大家であるAngst、J.、カリフォルニア大学のAkiskal、H.S.それぞれの研究者の提唱するスペクトラム概念にはいくつかの違いがあるものの、大きくまとめてみると、「気分障害はうつ病と双極性障害に明確には2分できず、診断閾値下の躁病・軽躁病とうつ病(大うつ病、気分変調症、閾値下のうつ病)との混合からなっている。しかもそれらの境界は曖昧である」という主張といってよいであろう。したがって、双極性スペクトラムは、典型的な大うつ病性障害を片端とし、典型的な双極性障害である双極I型がその反対側にくるスペクトル的な構造をしていると考
えられる。
→気分障害とシゾフレニーと正常の境界、双極性障害と単極性障害の境界、精神病と神経症と正常の境界、これらの境界について、連続して移行していると考える。その中で双極性スペクトラムも議論される。

提唱者ごとにみると、Ghaemiは自発的な(薬物などによって誘発されていない)躁病や軽躁病の既往はないが、双極性障害の家族歴があり、さらに躁病患者でみられるいくつかの特徴を持つものを双極スペクトラム障害(bipolar spectrum disorder)と名づけている(表2)。彼はこの双極性スペクトラム障害を、上記のスペクトル構造のなかで、きわめて反復性の高いうつ病と双極II型のあいだに置いている。したがって、彼の双極スペクトラム障害はディメンジョン診断的であるが、中にはさまざまな双極性の病態が含まれることになる。

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表 2 Ghaemiによる双極スペクトラム障害の
診断基準の提案
A. 少なくとも 1回以上の大うつ病エピソード
B. 自発性の軽躁ないし躁病エピソードがない
C. 以下のうちの 1つおよび D のうち少なくとも 2つ,あるいは以下の 2つと D の 1つを満たす

  1. 一度親族に双極性障害の家族歴
  2. 抗うつ薬誘発性の躁病ないし軽躁病
    D. Cの基準を満たさない場合は以下の 9項目のうち6つを満たすこと
  3. 高揚性人格
  4. 再発性の大うつ病エピソード(3回以上)
  5. 短期大うつ病エピソード(平均 3カ月以下)
  6. 非定型的抑うつ症状
  7. 精神病性の大うつ病エピソード
  8. 早期の大うつ病エピソードの発症(25歳以下)
  9. 産後うつ病
  10. 抗うつ薬の効果の消退(予防投与ではなく急性期に)
  11. 3種類以上の抗うつ薬による治療に反応しない

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一方Akiskalらは双極I型、双極II型に続き、最終の双極VI型と、それらの中間を含むたくさんのサブタイプを提示している(表1)。中にはうつ病エピソードのないサブタイプや、逆に躁病・軽躁病エピソードのないサブタイプがあり、さらにはこの概念を認知症や統合失調症との境界にまで広げている。このようにAkiskalらの双極スペクトラムはどちらかといえばカテゴリー診断的である。しかし、それぞれのサブタイプについての記述を読むと、ディメンジョン診断を目指しているようにもみえる。

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表 1 Akiskalの双極スペクトラム
双極I型 双極性障害
双極I1/2型 遷延した軽躁病を持つうつ病
双極II型 軽躁病を持つうつ病
双極II1/2型 循環気質者のうつ病;軽うつと軽躁.身体的な変動を伴う性格をもとに大うつ病が生じる
双極III型 抗うつ薬や身体的治療によってのみおこる軽躁
双極 1/2型 分裂双極性障害≒統合失調感情障害の双極型
双極III1/2型 物質ないしアルコール乱用によってのみおこる双極性障害
双極IV型 発揚気質者のうつ病
双極 1/4型 抗うつ薬によって反応するが,すぐに効果が減弱してしまう大うつ病エピソードを繰り返す.躁病・軽躁病はない
双極V型 軽躁病の症状を混合する大うつ病
双極VI型 認知症における双極性

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2)双極スペクトラム概念の流行
双極スペクトラム概念は最近の医学文献では流行のように増加しており、わが国でも欧米に数年遅れて論文が発表されている。まさに、双極スペクトラムはわが国の精神科臨床を拡大中である。すでにMoodDisorderQuestionnaire(MSD)やBipolarSpectrumDiagnosticScaleなどいくつかのアセスメントツールが公表され、これに基づいた「診断」や疫学調査がわが国をはじめ世界各国で行われている。とくにAkiskalらのグループの精力的な論文発表により、わが国でも彼らの双極スペクトラム概念に影響されている精神科医は少なくないであろう。
→特段影響力のある重要な論文が出ているわけではない。何か書かなければならない人が新しいテーマに即して書きたがるのはやむを得ない。だからと言って、治療に影響するかと言えば、そんなことはない。そこは区別すべきである。

3)双極スペクトラム概念の有用性
双極スペクトラム概念の有用性についてまず評価しておくべきであろう。双極スペクトラム概念は、軽躁病を含む双極性障害の軽症例への注目に役立っている。うつ病治療の現場では、つねに躁転への危険性がある。事後的に調べた研究では単極型うつ病と双極性うつ病の症状の違いが主張されるものの、うつ病患者の多様性はこれらの鑑別点を超えているため、症状だけからではほとんど鑑別できない。熟練した精神科医であっても、思わぬ躁転によって今までの診断の過ちに気づかされることはまれならず経験していることであろう。双極スペクトラム概念は、少なくともこのような失敗をしないためのひとつの警告にはなるであろう。同様に、今後双極性障害へと移行していく可能性の高い患者への注目にも役に立つ。薬物療法の面では、GhaemiもAkiskalも抗うつ薬の危険性を警告し、気分安定薬の有用性を主張している。抗うつ薬の不適切な使用による病像の不安定化や躁転などを避けるためにも、この概念は有用である。

1)双極性障害は過少診断か過剰診断か
うつ病の診断と治療の際に双極性の要素に注意を払わないことに対する警鐘として、双極性障害は過小診断であると主張するのは、多くは双極スペクトラム概念の提唱者であるGhaemi、AkiskalやAngstらである。一方で、評価基準が曖昧なために、過剰診断を危惧する研究者もいる。過剰診断と主張する研究者たちは次のような問題点を指摘している。

2)境界性パーソナリティ障害と双極スペクトラム
双極スペクトラムという診断は、境界性パーソナリティ障害や薬物乱用者を双極性障害と診断してしまいやすいという。移ろいやすい気分や高い衝動性が、一見躁病の様相を呈することもあるからであろう。しかし、現在の精神科診断名には生物学的な基礎がないとすれば、診断の妥当性自体を議論しても始まらないかもしれない。とくにDSMであれば、双極性障害とパーソナリティ障害の併存は操作的には許容されている。
したがって、両者は異なるものであると主張するためには、どちらかが「ない」ということを積極的に証明しなければならない。この証明は実際には困難であろう。もっとも、境界性パーソナリティ障害は実際は双極スペクトラムにほかならないと主張するAkiskalらのグループがいる一方で、双極スペクトラム概念を支持しているBenazziは両者は異なると考えており、議論の多いところである。
→議論を継続すべきである。

3)難治のうつ病は双極スペクトラムか
難治の大うつ病や頻繁に反復するうつ病は双極スペクトラムの可能性があるという主張は、危険をはらんでいる。それならば、どのようなうつ病であっても、そのうちには双極スペクトラムになるはずであるという詭弁につながる。そもそも大うつ病は、躁病がひとたび出現すれば、双極性障害と診断名が変わってしまう不安定な定義である。実際に、双極性障害と最終的に診断された患者はそれ以前に躁病相やうつ病相を経験していることがほとんどであるが、医師には報告していなかったり(あるいは医師が聞かなかったり)しているという。

→それはその通りで、患者や家族が躁エピソードを思い出せば診断が変わるなどはおかしな話である。しかしまた、通常、うつ病の診断があっても、それが内因性か心因性か、双極性うつ病か単極性うつ病か、明確に区別できないし、する必要もない。臨機応変に対処すればよいだけである。
統計処理には不便かもしれないが、聴取しうる過去に躁状態や軽躁状態がなかったとしても、未聴取部分にあったかもしれないし、未来にはあるかもしれないのだから、うつ病と表現すれば聴取可能な過去にmanieはなかったという意味で、双極性うつ病と書けば過去にmanieがあったという意味であると決めればそれでよいだろう。
この事情があるので、manieのない単極性うつ病ならば抗うつ剤がよい、双極スペクトラム障害ならば抗うつ剤は禁忌で気分安定剤がよいとするのも硬直化しすぎている。暫定的に出発して、診断も流動的で薬剤選択も流動的だと考えつつ、微細な兆候も見逃さないと考える。それは過剰診断ではないだろう。

4)診断ツールの乱用
双極スペクトラムの重要性を主張する研究者たちは、評価尺度や構造化面接などを用いて、大うつ病と診断されている患者には、双極スペクトラムが多数存在するという。その割合は、驚かされるほど高く、大うつ病の半数近くが双極スペクトラムであるという研究もある。上記のMSDなどのアセスメントツールがよく使用されている。これらの研究では、そもそも双極スペクトラム概念に賛成する研究者が、それを検出するために作成された診断ツールを用い、協力してくれる施設で行うのであるから、偽陽性となるバイアスは高い。その数字をそのまま信じがたい所以である。本人に過去の病相の有無を聞いてもどれくらい当てになるのであろうか。国ごとに有病率が大きく異なるのも同じ理由であろう。

→診断ツールが悪いのではなくて、そもそもの考えが違うのだから結果はそのようになる。でも、そのほうが、現実をよく理解できるようになるのではありませんかと提案しているのである。

5)操作的診断基準の「操作」
双極スペクトラムを支持する研究者たちは、DSMやICDで定められている軽躁病エピソードの期間が長すぎると主張している。しかし、軽躁の期間を現行の4日から2日にするだけで、双極II型の数は10倍近くなるはずという主張は、あまりにも都合のよすぎる主張であろう。実際この基準を用いると、単極型うつ病の半数は双極性障害となるという。

→そうですね。これは本質的ではない。単極性うつ病はすべて、「調査しえた範囲では」単極性うつ病「であるが、今後の過去調査や未来の症状により双極性うつ病と変更される可能性がある」という意味である。

1)双極スペクトラムに対する治療には質の高いエビデンスがない
治療面でもいくつかの問題点を挙げることができる。もっとも大きな問題点は、双極スペクトラムに対しては、質の高いエビデンスを持つ治療法は確立していないことであろう。双極スペクトラムを対象とした薬物の臨床試験はわずかしかない。Akiskalは低用量のリチウムやバルプロ酸、Ghaemiらは抗うつ薬よりも気分安定薬を推奨し、両者とも必要に応じて第2世代の抗精神病薬を推奨している。しかしこれらの推奨には確固としたエビデンスがあるわけではない。いくつかの
双極性障害の治療ガイドラインが公表されているが、ほとんどは双極I型が対象とされている。双極II型への治療が詳しく記載されているのは、カナダのCANMATのみである。そこでの記載をみても、推奨される薬物のエビデンスレベルは双極I型障害とくらべて高くないことがわかる。双極スペクトラムの主張者は、診断の重要性を主張するあまり、治療のエビデンス確立までには手が回らないかのようである。抗うつ薬は、双極I型とII型を合わせた双極性うつ病エピソードの患者に対しては、効果が期待できないとされている。さらに抗うつ薬は双極性障害の患者に対しては、躁転だけでなく、気分の不安定化、病相回数の増加、治療の抵抗性や自殺行動をひきおこすといわれている。しかし、なお双極II型では抗うつ薬が有効という複数の研究がある。したがって、双極I型以外の双極スペクトラムに対しては、抗うつ薬は無効で気分安定薬だけが有効とは確実にいえないのが現状である。

→そうですね。ここでは双極と単極の問題ですが、繰り返し書いているように、内因と心因・反応性・神経症性の区別の問題、精神病性と神経症性の区別の問題もあり、事態を総合的に判断し、各自が工夫することだろう。エビデンスが参考になることは当然であるが、硬直化して絶対服従でもない。

2)気分安定薬の濫用への危惧
気分安定薬は双極性障害の患者に対して、通常第1選択であるといわれている。それでは双極スペクトラムのように幅広い双極性の患者に対してはどうなのであろうか。これについても確実な有効性を示す研究は多くない。症状の安定と再発予防に有効であるとしても、次のような実際の使用において解決すべき問題が数多く残されている。

1.気分安定薬はどの時点でどのように投与すべきか。双極性を疑ったときに直ちに投与すべきなのか、それとも明らかな躁病・軽躁病がみられたときなのか。

→疑ったとき直ちに。

2.抗うつ薬を投与しているときには、どのようにすべきなのか。気分安定薬を開始して、同時に抗うつ薬を中止すべきか、あるいは併用を続けるべきか。

→ケースに応じて考える。

3.抗うつ薬による躁転が疑われるときにはどうすべきか。一般に、抗うつ薬誘発性の躁病エピソード(Akiskalのサブタイプでいう双極III型)では抗うつ薬の中止・減量あるいは、気分安定薬の開始が推奨されている。しかし、SSRIによる躁転率は1%以下と低く、双極性障害の大規模臨床試験―The Systematic Treatment Enhancement program for Bipolar Disorder (STEP-BD)の研究によると気分安定薬を投与しても抗うつ薬による躁転は予防できないという。

→SSRIによる躁転率は1%以下と低いのは良いことだ。経過が良好ならばそのまま様子を見てもよい。経過不良ならば次の手段を考える。また、気分安定薬を投与しても抗うつ薬による躁転は予防できないならば、次の手を考える。

4.難治のうつ病が双極スペクトラムと診断され、難治性への十分な評価なく、気分安定薬の投与が過剰に正当化されないか。STARーDでもわかるように、最初の抗うつ薬に反応しない患者に対してリチウムを併用しても、さほどめざましい効果があるわけではない。

→だから、気分安定薬やリチウム、甲状腺剤どを使用した場合にどのような結果が出るのか精密に判断する。過剰に正当化するつもりはない。

5.気分安定薬の副作用の評価。気分安定薬を開始するとなると、抗うつ薬よりも長期投与になる可能性がある。そのときの安全性の評価が必要である。最近、抗てんかん薬による自殺傾向の上昇が指摘されている。現時点では、気分安定薬としての抗てんかん薬には当てはまらないとされているが、今後の研究が必要であろう。

→てんかん発作のない、脳波異常のない、双極スペクトラムの人に対しての長期予後は確かにデータが乏しい。情報を厳密な態度で判定する必要がある。

6.最近欧米では、第2世代抗精神病薬があらたに双極性障害に対する適応症を獲得している。わが国でもオランザピンが急性の躁病に承認された。双極スペクトラム概念の発展の背後に気分安定薬の販売促進があるとすれば、それはdiseasemongeringであるという主張も無視できないところである。実際に、米国では双極性障害の診断の増加と、第2世代抗精神病薬の処方割合は増加しているというデータがある。

→処方医は製薬会社の宣伝を厳密な態度で判定して処方を決定すべきです。

一見単極型のうつ病にみえるような患者に対しても、その家族歴や微細な双極性の特徴に注意を払えば、安易な抗うつ薬投与による思わぬ躁転や気分の不安定化を避けることができるようになるかもしれない。うつ病エピソードにおけるさまざまな精神症状に対して、定型的でない症状に対する注意はつねに払っておくべきである。また、過去のエピソードに対する詳しい病歴聴取も重要である。

→だからそう言っている。

しかし、「抗うつ薬ではなく気分安定薬を」という主張に対しては、慎重な対応が必要であろう。従来の過剰な抗うつ薬の投与が、過剰な気分安定薬の投与へ転換するだけという危惧がある。

→そのような精神科医がいるかもしれないが、各自、気を引き締めていきましょう。