下書き うつ病勉強会#154 適応障害(adjustment disorders)について

適応障害(adjustment disorders)について。

DSM-5による適応障害の診断基準
A. はっきりと確認できるストレス因子に反応して、そのストレス因子の始まりから3ヶ月以内に情緒面または行動面の症状が出現
B. これらの症状や行動は臨床的に意味のあるもので、それは以下のうち1つまたは両方の証拠がある。
(1) そのストレス因子に暴露されたときに予想されるものをはるかに超えた苦痛 (2) 社会的または職業的(学業上の)機能の著しい障害
C. ストレス関連性障害は他の精神疾患の基準を満たしていないこと。すでに精神疾患を患っている場合には、それが悪化した状態ではない。
D. 症状は、死別反応を示すものではない
E. そのストレス因子(またはその結果)がひとたび終結すると、症状がその後さらに6ヶ月以上持続することはない

Diagnosis of adjustment disorders is based on identification of major life stressors, your symptoms and how they impact your ability to function. Your doctor will ask about your medical, mental health and social history. He or she may use the criteria in the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-5), published by the American Psychiatric Association.

For diagnosis of adjustment disorders, the DSM-5 lists these criteria:

Having emotional or behavioral symptoms within three months of a specific stressor occurring in your life
Experiencing more stress than would normally be expected in response to a stressful life event and/or having stress that causes significant problems in your relationships, at work or at school
Symptoms are not the result of another mental health disorder or part of normal grieving
Types of adjustment disorders
The DSM-5 lists six different types of adjustment disorders. Although they’re all related, each type has unique signs and symptoms. Adjustment disorders can be:

With depressed mood. Symptoms mainly include feeling sad, tearful and hopeless and experiencing a lack of pleasure in the things you used to enjoy.
With anxiety. Symptoms mainly include nervousness, worry, difficulty concentrating or remembering things, and feeling overwhelmed. Children who have an adjustment disorder with anxiety may strongly fear being separated from their parents and loved ones.
With mixed anxiety and depressed mood. Symptoms include a combination of depression and anxiety.
With disturbance of conduct. Symptoms mainly involve behavioral problems, such as fighting or reckless driving. Youths may skip school or vandalize property.
With mixed disturbance of emotions and conduct. Symptoms include a mix of depression and anxiety as well as behavioral problems.
Unspecified. Symptoms don’t fit the other types of adjustment disorders, but often include physical problems, problems with family or friends, or work or school problems.
Length of symptoms
How long you have signs and symptoms of an adjustment disorder also can vary. Adjustment disorders can be:

Acute. Signs and symptoms last six months or less. They should ease once the stressor is removed.
Persistent (chronic). Signs and symptoms last more than six months. They continue to bother you and disrupt your life.

おおむね、明らかなストレス因があり、そこから3か月以内に症状を呈し、ストレス因が消えて6か月以内に症状が消える、ただし、うつ病その他の疾患に該当しない。
うつ病などに該当すればそちらが優先される。あまり積極的なカテゴリーではない。
ストレス因の質としては必ずしも「圧倒される」ような質とは限らない「日常のストレス」とされ、また精神病反応が除外されて「短期精神病性障害」に属する。
ストレス因との間に時間的な前後関係があるだけで、具体的な症状の記載がない。
同じようなストレス状況にあっても、適応障害と診断されるほどの症状を呈する人と、そうならない人がいる。それはパーソナリティの脆弱さゆえではなく、主観的な体験の差異にあることは、適応障害の診断にとって重要な認識である。ということになっているのであるが、普通に考えて、「主観的な体験の差異」とは「パーソナリティの差異」のことではないだろうか。
出来事を誰でも主観的に受け取る。(この出来事に対しての個人的な率直な感想はこうだが、一般の人々の感じ方としては別の様だろう、と精神科医みたいに考えるものではないと思う。)個々の人間の受け取り方については、根っこにその人の遺伝的特性があり、そのうえで、成育歴がある。遺伝子からの情報が神経細胞を介して神経回路に反映され、一方で、その時々の環境因子が感覚器を介して神経回路の形成に関与する。つまり、遺伝子と環境の相互作用で、時間の関数としての神経回路が存在する。
その神経回路をパーソナリティと言ってもいいし「主観的な体験の差異」と言ってもよい。

問題なのは、同じ体験をしても、適応障害になる人とならない人がいるわけで、それは同じカテゴリーの急性ストレス反応やPTSDと同じである。適応障害になった人に、他の人は我慢できたのに、あなただけが状態が悪くなるのはパーソナリティの脆弱さに起因すると責めることがあれば、問題だということだろう。だから、「主観的な体験の差異」と表現して、パーソナリティへの言及を回避している。とはいうものの、主観的な体験の差異が実質的にはパーソナリティになるはずだと思う。
原因帰属の問題として古来有名である。

適応障害との鑑別で最も重要なものはうつ病である。うつ病と診断するには症状数や持続期間が不足している場合、DSM‒5 では「他の特定される抑うつ障害(Other Specified Depressive Disorder)」に分類されるか、ストレス因の存在が大きく感じられる場合には適応障害と診断される。しかし、適応障害の診断はストレス因がなくなって6か月以内に症状が消えることを確認しなければならないので、確定診断には時間を要する。ストレス因が消滅したこと、その後6か月以内に症状が消えることを確認しなければならない。この辺りは、ストレス因という原因に言及していること、経過を確認してからでないと診断できないこと、の二点でDSM全体の思想に反しているような気がする。
経過の中で、その病勢が増悪すればうつ病と診断されるし、6か月以上持続するならばうつ病の診断になる。そのような診断変更はおかしなものなので、改める必要があるだろう。

神経回路の問題まずあり、そこに環境因子が出会って、適応障害、急性ストレス反応、PTSDなどが発生するのだが、急性ストレスとPTSDでは、ストレス因が圧倒的な強さを持っていることが想定されている。適応障害の場合は、それほど強いストレス因を想定していない。それならば、受け取る個体の神経回路の問題があるだろうということになるが、それにはなるべく言及しない。おかしな話である。

心因性精神疾患の中で有名なものはFreudの神経症概念である。現実検討の障害がないことをもって神経症とするのであるが、Freudは病因を無意識的葛藤とその妥協形成に求めた。この Freud 的な病因論(特に「無意識」という概念)を排除したいという意図はDSM分類の診断基準全般に貫徹されている。DSMは心理学的ではない生物学的な精神医学を描き出している。しかしその中で適応障害、急性ストレス反応、PTSDが例外である。

ドイツ記述精神医学では、Schneider, K. が「異常体験反応(abnorme Erlebnisreaktion)」という概念を提唱した。Schneider は体験反応の要件として、
1.原因となった体験がなければ、その反応性の状態は出現しなかった、
2.状態の内容や主題はその状態の原因と了解可能な関連がある、
3.その状態の時間的経過は原因に依存し、特に原因が解消されると、その状態も終わる、
の 3点を挙げたが、2と3についてはあてはまらない場合もあると述べている。
また、異常体験反応については通常体験に比して
1.反応が強すぎる、
2.反応の持続が長すぎる、
3.反応の内容が正常の反応と質的に異なっているもの、
であるが、正常な体験反応との境界は明瞭ではないと述べている。
さらにSchneider は体験反応において、体験に対する主観的な重みづけ、すなわち生活史やパーソナリティなどによって異なる、体験の意味するところ、が重要であり、客観的には類似ないし同一の出来事であってもそれぞれの個人にとって、それぞれの意義を有し、さまざまな反応を生じ得るという力動的観点にふれている。

適応障害の診断名は DSM‒IIIで初めて登場したが、その先駆け的な診断名はすでに DSM‒Ⅰに「Transient situational personality disturbance」として挙げられている。それは「圧倒されるような環境的ストレス因に対する急性の反応として一過性に発現する障害で、その重症度はさまざまであり、明らかな他の精神障害が認められないもので、ストレス因がなくなれば症状は速やかに軽快する」と定義され、Ganser 症候群や精神病反応も含んだ広い概念であった。
その亜型分類で「適応反応(adjustment reaction)」という用語が使われ、ライフステージによる項目と「gross stress reaction」という項目で構成されていた。

DSM‒I(1952)
Transient situational personality disturbance
Gross stress reaction
Adult situational reaction
Adjustment reaction of infancy
Adjustment reaction of childhood
Adjustment reaction of adolescence
Adjustment reaction of late life
Other transient situational personality disturbance

DSM‒IIでも,DSM‒Iの定義は踏襲されたが、診断名は「Transient situational disturbance」と変更され、亜型分類はライフステージによる分類のみに変更された。
DSM‒IIIではそのストレス因は必ずしも「圧倒される」ような質とは限らない「日常のストレス」とされ、また、精神病反応が除外されて「短期精神病性障害」に振り分けられて、「適応障害(adjustment disorders)」の現代的な概念が整った。しかしそこに不均一な臨床像が含まれることは変わらぬ問題点として残った。

DSM‒II(1968)
Transient situational disturbance
Adjustment reaction of adult life
Adjustment reaction of infancy
Adjustment reaction of childhood
Adjustment reaction of adolescence
Adjustment reaction of late life
No corresponding diagnosis

DSM‒5における「適応障害」の診断基準はDSM‒IVのものと大きな変更点はない。DSM‒IVでは独立した診断カテゴリーとされていたが、 DSM‒5 では「心的外傷およびストレス因関連障害」群の 1 つとして分類されることになった。原則として病因を問わない方針の DSM 分類にあって、ストレス因との因果関係を明示した一群に適応障害も分類され、この診断の立ち位置がより明確となった。

明示したと言っても、医師の側で、因果関係を証明できるものではない。ただ時間的に順序が整合的であるというだけである。それだけのことで診断するのはとても危険だと思う。

DSM‒5 でも ICD‒10 でも、その診断基準はほぼ変わらない。すなわち、ストレス因に対する反応であること、そのストレス因が始まってから速やかに発症し(DSM‒5 では 3 ヵ月以内とし、ICD‒10 では 1 ヵ月以内としている)、ストレス因がなくなれば速やか(DSM‒5、ICD‒10 ともに 6 ヵ月以内)に改善すること、また、その症状の程度や強度は通常考えられるものよりも著しい苦痛をもたらしていることである。
障害(disorder)の診断に欠かせない「個人の機能不全」が認められることも要件の 1 つである。
ストレス因の終息に伴うように症状も速やかに消失することが適応障害の診断の原則であるが、長期間続くストレス因に曝露された場合には慢性化することがあるとしている。ICD‒10 の亜型分類では「持続は 2 年を超えない」という但し書きをつけた「遷延性抑うつ反応」をコード化しているが、これは十分な実証研究に裏書きされたものとは言い難い。

ストレス因が長い間持続すると、そのストレス因が消えても、症状が続くことがあるというのであるが、それは二つの可能性がある。ひとつは環境要因が神経回路を変更した。もう一つは神経症化である。鑑別は難しい。

留意すべきは、正常な死別反応は適応障害として記録してはならないということである。しかし、死別に対する反応に限らず、ストレス因に対するどこまでの反応を正常範囲内ととらえるのか、「障害」の域に達していると診断するのかに関する指針は述べられていない。
ちなみにSchneider は、正常な体験反応と異常な体験反応とは連続線上にあると述べている。適応障害の診断にも同様のグレイゾーンが存在すると考えられる。

正常な死別反応は除外するというのも、あまり頭のいい話ではないと思う。実に凡庸な診断基準である。

診断基準における「他の精神疾患の基準を満たしていない」という要件は適応障害が軽症の病態であるとの誤解を招きやすいが、適応障害患者にも自殺企図が少なからず認められており、あながち軽症と侮れないことを示唆している。

診断基準にストレス因との時間的な因果関係以外に特徴的な症状の記載がない点は、結果的に不均一な臨床像が混在することの原因となる。診断を混乱させる要因となっている。

適応障害は「環境反応性うつ病」と名付けてもよい感じがする。

適応障害との鑑別で最も重要なものはうつ病である。しかし適応障害の診断がストレス因と症状発現・消失との時間(縦断)的関連によってなされる一方で、うつ病の診断は横断的(症状の数と持続期間)であるため、両者の鑑別は簡単ではない。特に操作的診断の運用上のルールに基づけば、うつ病と診断するには症状数や持続期間が不足している場合、DSM‒5 では「他の特定される抑うつ障害(Other Specified Depressive Disorder)」に分類されるか、ストレス因との因果関係によって適応障害と診断されるかである。しかし適応障害の診断にはストレス因の終息を見極める縦断的な診断が必要になるので、その時点では確定されず暫定となり、一方、その病勢が進行中であれば、症状や持続期間が増して、うつ病の診断が濃厚になる。

つまり、このような診断システムは、改善すべきだということになる。

Zimmerman, M. らは、DSM‒IVの「特定不能のうつ病性障害(Depressive Disorder Not Otherwise Specified)」患者と適応障害患者との比較研究を実施した。それによると、適応障害群では食欲不振、体重減少、不眠がより多く認められたのに比して、特定不能のうつ病性障害群では興味関心の喪失、食欲亢進、過眠、決断力低下、アンヘドニアがより多く認められ、また特定不能のうつ病性障害群には適応障害に比してパーソナリティ障害の併存が有意に認められたという。
この結果は、うつ病圏と診断するか、適応障害と診断するかということが、その治療や予後の見通しにも影響を与えるため、見過ごせない問題だということを示唆している。

特定不能のうつ病性障害群では双極性bipolarityの要素が適応障害群よりも強い。ここでも過眠と不眠が理論的推測とは逆になっている。不思議なことだ。食欲不振と過眠のセットがsick behaviorであり、また、食欲亢進と不眠のセットがmanieであるはずだ。

DSM‒5 で同じカテゴリーに分類された急性ストレス反応(Acute Stress Disorder:ASD)や心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder:PTSD)との鑑別も混乱が懸念される。

ASD や PTSD で要件とされているような重篤なストレス因に曝露されている場合でも、その症状プロフィールが ASD や PTSD の診断基準を満たさない場合には適応障害と診断される。また症状プロフィールが ASD や PTSD の診断基準を満たしていても、曝露されたストレス因が ASD やPTSD の診断基準を満たさないストレス因である場合も適応障害と診断される。

パーソナリティ障害単独でも不適応を生じるため、適応障害との鑑別が問題になる。もちろん、適応障害とパーソナリティ障害の併存はありうる。その場合、特定のストレス因によって発現した症状が、その個人が有するパーソナリティ障害に起因する長期的な症状の単なる悪化ではないこと、ならびに適応障害の診断基準を満たしていることが必要となる。これにもグレイゾーンが存在することが推察される。

適応障害の治療研究は極めて限定されている。その理由は「他の精神障害の診断基準を満たさない」という但し書きのために構造化診断のフォーマットにのりにくいことや、特定の症状プロフィールをもたない不均一な臨床像があるためだと考えられる。診断基準を鑑みてストレス因の消失によって速やかに軽快する経過に、果たして治療的介入が必要なのかという疑問がわいても不思議ではない。
実際、産業精神医学の場面では、職種の不適合の是正のみで軽快する例がみられる。

適応障害に対する薬物療法ならびに非薬物療法ともに残念ながら有意な有効性を示すものはほとんどみられない。その意味では、投薬は最小限にとどめる必要があるかもしれない。

ストレス因との時間的因果関係は目にとまりやすいが、それだけでは適応障害と診断できないことは言うまでもない。同じ出来事を体験しても、それが個人のストレス因となるか、さらには発病に導くほどの強度をもったストレス因になるかは、その個人の主観的体験による。上司に同じように叱責されても、何事もなかったかのように受け流せる人もいれば、その叱責を前向きにとらえ姿勢を正す人もおり、また叱責によって大きな苦痛や混乱を感じてしまう人もいて、個人の反応は千差万別である。

ストレス因と目される出来事や状況に対する主観的な体験を理解する糸口として、それまでの人生のなかで同様の出来事や状況に遭遇した体験の有無を聴き、そのときの対処や心身の状態と現在の状態とを比較し、何がどう異なるのかを話し合うことは有用である。またこれまでに繰り返し同様のストレス状況に陥っていないかを探ることは、その人の「人生のテーマ」を見出す手がかりとなる。中心葛藤テーマである。

これらの診断のための試みは、患者自身が適応障害の病状に陥った理由を理解することを促すので、治療的にも作用する。また適応障害ではそのストレス因に対する実際的な対策として環境調整が実施されることが少なくないが、患者の主観的体験を理解することなしには適切な環境調整はできない。例えば、極端な場合、温厚な上司に対して、患者自身の「厳しく批判的な母親イメージ」を投影して、怯え、孤立し、疲弊してしまっていることさえある。その場合、発症した環境から遠ざけることだけでは解決にはならず、患者がどのような主観的な体験をしているかを理解したうえで、患者が自身の認知の偏りを理解できるよう促したり、周囲がその対応を工夫できるよう促す必要がある。その意味では職場のストレスを契機として発病したと考えられる適応障害であっても、患者の生活史や家族の状況を理解することは有用である。

さらに、ストレス因は 1 つとは限らず、複数の環境で複合的に作用していることさえある。
ところで適応障害に限ったことではないが、とりわけストレス因という外側の要因が取沙汰される適応障害では、疾病利得について念頭におきながら治療にあたらなければならない。患者が負えるはずの義務や責任を回避する手助けを精神科主治医がしていないか、すなわち治療自体が疾病利得になることに加担していないか、このような疾病利得によって慢性化を招く危険があることを注意する必要がある。