下書き うつ病勉強会#189 多発性硬化症

1.疫学

多発性硬化症は神経免疫疾患の一つであり、自己免疫機序により脳、脊髄などの中枢神経の脱髄(神経の髄鞘が傷害され脱落する)が病気の本態と考えられています。日本では10万人あたり10人くらいの有病率と考えられており、欧米に比べると少ないですが、患者数は過去40年で40倍ほど増加傾向にあるとされ、クリニックなどから紹介されるケースも近年増えてきています。

特定疾患受給者数の推移

全世界的に男女比は1:2~3と女性に多く、初発年齢のピークは30歳前後であり、10歳以下や65歳以上の初発は少ないのはポイントの一つです。ただ少ないが、いないわけではないのは臨床の難しいところだと思います。

2.症状

症状に関して、最も多いものは感覚障害(上肢や下肢のしびれ)、視力障害ですが、脳、脊髄、および視神経に起因する様々な症状を呈し得ます。脊髄が障害されれば、両下肢の麻痺や四肢麻痺、ある高位レベル以下の感覚障害、排尿障害などが生じたり、頭を含まない半身の痛覚鈍麻+逆側の運動麻痺(ブラウン・セカール症候群)などを生じたりします。脳幹が障害されると、複視、構音、嚥下障害などが、脳が障害されると一側の上下肢の麻痺が生じたり、感覚障害が生じたりします。

3.臨床経過

経過に関して大別すると、再発と寛解を繰り返す再発寛解型が最も一般的ですが、中には徐々に悪化する進行型と呼ばれるタイプがあるのには注意が必要です。再発寛解型の初回発作のみの場合をclinically isolated syndromeと呼びます。多発性硬化症では早期発見、早期治療の重要性(長い経過で見ると差が出る)が説かれており、この時点で発見することは患者さんの長期的な予後に関わります。
症状としては先ほど述べたような症状になりますが、後述するMRI画像でそれに見合う異常があり、それが多発性硬化症らしい病変なら間違いないことになります。

4.診断

診断は国際的に用いられているのはMcDonaldの診断基準というもので、何度も改訂され現在2017年版が用いられています。なかなか完全に理解するのは難しいのですが、先ほど述べた再発寛解型の診断には、時間的多発(間をあけて再発する)+空間的多発(側脳室周囲、皮質下白質・皮質、脳幹・小脳、脊髄のうち二つ)があり、それは症候だけでなく、MRIだけでも言えるといった診断基準になります。
細かい点になりますが脳MRIで造影される病変と造影されない病変が併存すればそれは時間的多発として良い(1回のMRIで再発と同じ扱い)のと、髄液のオリゴクローナルバンド陽性なら、なんと時間的多発ありして良いとされている点がこの基準の特色で、細かい点は良いと思いますが、MRI検査と髄液検査が重要という点は知っておいていただきたい内容になります。
加えて、MRIの異常が多発性硬化症らしいかどうかがポイントになり、下図のような側脳室に接してそれに直交するように伸びる楕円形の病変、脳室から上方に指で押したような病変(Dawson’s finger sign)、皮質下のU fiberに沿った病変は比較的特徴的とされている点はMRIでの多発性硬化症診断の一つのポイントになります。

NMOとMSの鑑別 頭部MRI MS

5.鑑別

鑑別すべき疾患として最も重要なものは視神経脊髄炎と、抗MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)抗体関連疾患です。これらには抗アクアポリン4抗体と抗MOG抗体の測定が重要です。一般的に外注で検査できるELISA法による抗アクアポリン4抗体はCBA法より感度が落ちるとされている点には注意が必要です。

6.治療

本邦における多発性硬化症の治療は20年で極めて大きな変化を遂げ、20年前には一剤しかなかったものが、現在下記7種類の治療薬が認可され、さらに増えていくことが期待されています。各薬剤には有効性と安全性に差異があり、それぞれの特徴、注意点があります。そのため、これらの薬剤の使い分けが重要です。
また、病勢や予後をなるべく早くに判断してより効果の高い薬へ切り替えていくことが重要と考えられています。再発を繰り返しているのに(たとえMRI上だけでも)、漫然と効果の弱い薬を使い続けるべきではない、というのが世界的なコンセンサスになっています。
ただし効果の高い薬は感染症のリスクなど副作用が全く心配ないとは言えず、使用前のリスクの判断、患者さんへの丁寧な説明と使用後のこまめなチェックが欠かせません。この点、不安があればお近くの多発性硬化症を専門に診ていらっしゃる先生に相談されてはと思います。

日本で再発寛解型MS(RRMS)に認可されている疾患修飾薬(DMD)