AI時代の教育 読解力・共感力・倫理力

新井  AIの性能が短期間でここまで向上したことには驚いています。チャットGPTは、もはや人間の知能と見分けがつかないほどの能力をもっています。現在の知的労働者やホワイトカラーの仕事は大幅に効率化され、いずれは多くの人が職を奪われる可能性があると危惧しています。

新井  現在のAIは、人間が何度生まれ変わっても読みきれないほど大量のテキストデータを学習しています。ですからどれだけ多くの知識、情報を処理できるかでAIに勝てる人はいません。

髙宮  先生は「東ロボくん」プロジェクトを通し、日本の中高生の多くが教科書を正確に読めていないことに気づかれました。以来、日本人の読解力を高めるための取り組みに力を入れておられます。

新井  これは本当に深刻な問題です。文字は自然物ではなく人工物です。放っておいても自然に人が使いこなせるようになるものではありません。文字を正確に読むには、それなりの訓練が必要なのです。

新井  小学校から大学までは学び方を学ぶ場です。アウトプットの場ではありません。要領よく学ぶより、発達段階に合わせて一つひとつ丁寧に積み上げ、着実な力をつけることが大事です。そしてすべての学びは読解力から始まります。最も大事なことは、中学高校の期間で自学自習できる汎用的な読解力を身につけておくこと。その力があればこれからの時代、どんな変化があっても自ら学び、道を切り開いていけるのではないでしょうか。

髙宮  世の中が変化すると、特別なことをしなくてはならないのではないかと思いがちです。でも人間の可能性を伸ばす子育てや教育の基本は、どんなに時代が変わっても変わらないということですね。

髙宮  身体をもたないAIは主体性やコミュニケーション能力、共感性や倫理観といった非認知能力をもっていません。近年、非認知能力の重要性が指摘されていますが、AI時代にはますます大切になってくるわけですね。

新井  非認知能力を身につけるには5歳までの教育が重要だと言われています。保育園で子供たちはけんかをしては仲直りする。みんなで仲良く遊ぶためのルールを編み出す。かけっこで勝って喜び、負けて悔し泣きをする。そのような幼児期の原体験が、ますます重要になってきます。