下書き うつ病勉強会#183 ADHD 腸内環境

 発達障害の1つである注意欠陥・多動性障害(attention-deficit hyperactivity disorder:ADHD)は、正常な発達をする脳機能と発達が遅れる脳機能が混在するため、日常生活で問題を生じやすい。ADHDは脳機能の発達障害であるが、脳機能が発達しないのではない。したがって、成人のADHDは、小児期のADHDとは異なる病態である。

ADHDとは――診断基準
 ADHDとは、不注意と多動・衝動性を中核症状とする脳の発達障害であり、学齢期に家庭や学校生活でさまざまな困難を生じる(1)。頻度は、学齢期の子供の3~7%である。

 「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版」では、下記の条件が満たされたときにADHDと診断される。

 (I)不注意(活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めないなど)と多動―衝動性(じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまうなど)が年齢の発達水準に比べてより頻繁に強く認められる。

 (II)症状のいくつかが12歳より前から認められる。

 (III)2つ以上の状況(たとえば、家庭、学校、その他の場所での活動中など)で、障害が認められる。

 (IV)発達に応じた対人関係や学業あるいは、仕事での機能が障害されている。

 (V)その症状が、統合失調症などの精神病性障害の経過中に起こるものではない。

 ADHDは学童期だけの病態ではない。成人になってもその脳の特性は存在するが、発達が加わるために小児期の病態とは異なる可能性がある。だから、成人のADHDは診断が難しい。さらに治療に関しても、病態が異なることを考慮する必要がある。

成人のADHDの特徴
――適切に診断されない背景とは
 ADHDは、社会生活において年余にわたり影響を与える。成人から高齢になるまでADHDの脳の特性に気がつかれないこともよくあり、変わり者として扱われ、不適切な対応が行われる。

 成人のADHDが適切に診断されない背景には、1:誤診、2:併存症だけの診断、という2つの場合がある。

 誤診で最も多いのは、認知症である。認知症患者446人を分析した研究では、7人(1.6%)が明らかにADHDであるにもかかわらずアルツハイマー病と診断されていた(2)。

 これらの高齢者は、物忘れや不注意で、日常生活でさまざまな問題を起こしていたので、認知症と診断されていた。ところが認知機能の低下はなく、不注意から問題を起こしており、特にストレスがかかる場面で問題が起こっていた。

 これらの患者に、薬物による治療的介入として、中枢神経系のドパミンを調節する向精神薬(たとえばアトモキセチン)を投与すると、不注意が軽減し、認知症の症状と誤認されていた物忘れが消失した。

 もう1つの併存症だけの診断の場合、ADHDと診断されていなかったグループでADHDに併存する疾患のみが診断されていた。この場合、ADHDの存在に気づかれておらず、脳機能の根本的な障害には気がつかれていない(3)。

 ADHDに併存する疾患は、精神疾患と身体疾患がある。精神疾患としては、感情障害、人格障害、社会関係障害、睡眠障害、薬物依存がADHDの前に診断されていた。身体疾患としては、過敏性腸症候群、線維筋痛症、片頭痛、慢性腰痛、原因不明の口腔顔面痛がADHDの診断の前に診断されていた(4)。

併存疾患から成人の
ADHDの病態を考える
 興味深いことに、精神的併存疾患も身体的併存疾患も、ADHDの病態と関連する。ADHDはドパミン神経系の機能障害が病態を形成するが、併存する精神疾患も大多数がドパミン神経系の機能不全と関連する。身体的併存疾患である線維筋痛症、片頭痛、原因不明の口腔顔面痛も、ドパミン神経系が関連する。

 とくに、これらの病態の中でも慢性疼痛性疾患は、ノルアドレナリンとドパミンを増強する向精神薬により、一部の症例ではあるが、劇的に症状が改善する(4)。

 ところが、疼痛以外の身体的併存疾患である腸管の機能性疾患(たとえば過敏性腸症候群)は、ドパミン神経系とは関連しない。腸内細菌叢の変異が存在し、腸管のバリア機能の低下が存在する。そのために腸内の有害物質が腸管を介して体内に侵入する。しかしこの病態も、中枢の神経機能に影響する(5)。

 したがって、ADHDの身体的併存疾患の病態から、中枢のドパミン神経系、腸内環境という2つの異なる次元の治療ターゲットが考えられる。たしかに薬理ゲノミクスでドパミン神経系だけを治療ターゲットとした場合、臨床的に満足できる治療効果が確認されなかったという(6)。腸内環境への介入も重要なのかもしれない。

 では、成人のADHD患者の症状はどうだろうか。成人のADHDは、若年のADHD患者に比べて、遺伝的に支配されているADHDの中核的な症状である多動性の症状が軽減する。その背景には、社会的学習により、社会生活の場面で多動の制御がある程度可能になったことが推測される。

 しかし成人のADHDでは、慢性疼痛の割合や消化管機能障害は増加し、それに伴い相手を思いやる脳機能は低下し、社会的孤立を生じやすい。

 このことから、成人になって診断されるADHD患者の症状は、遺伝的要因のドパミン神経系の症状より、むしろ腸内環境も含めた環境要因による症状が治療ターゲットになる。ダイレクトにドパミンを調節する薬物療法より、後天的に調節可能な腸内環境に働きかけることで社会性が改善する可能性がある。

 今後の研究課題である。

<文献>
[1] Antolini G, Colizzi M. Where Do Neurodevelopmental Disorders Go? Casting the Eye Away from Childhood towards Adulthood. Healthcare (Basel). 2023;11(7):1015.
[2] Sasaki H, Jono T, Fukuhara R et al. Late-manifestation of attention-deficit/hyperactivity disorder in older adults: an observational study. BMC Psychiatry. 2022;22(1):354.
[3] Lin YJ, Yang LK, Gau SS. Psychiatric comorbidities of adults with early- and late-onset attention-deficit/hyperactivity disorder. Aust N Z J Psychiatry. 2016;50(6):548-56.
[4] Kasahara S, Takahashi K, Matsudaira K et al. Diagnosis and treatment of intractable idiopathic orofacial pain with attention-deficit/hyperactivity disorder. Sci Rep. 2023;13(1):1678.
[5] Wang LJ, Li SC, Li SW et al. Gut microbiota and plasma cytokine levels in patients with attention-deficit/hyperactivity disorder. Transl Psychiatry. 2022;12(1):76.
[6] Elsayed NA., Yamamoto KM., Froehlich TE. Genetic Influence on Efficacy of Pharmacotherapy for Pediatric Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: Overview and Current Status of Research. CNS Drugs. 2020;34(4):389-414.