下書き うつ病勉強会#141 うつ病と睡眠障害と治療-3

・睡眠障害とうつ病の治療には内因性うつ病と神経症性抑うつとを鑑別する必要がある。
・内因性うつ病の睡眠障害では早朝覚醒が特徴的であり、入眠困難、中途覚醒を訴える場合もある。
・内因性うつ病の睡眠脳波では、深(徐波)睡眠が減少し、レム睡眠が増加する。
・三環系抗うつ薬をはじめとする多くの抗うつ薬はレム睡眠を抑制する。
・概日リズム睡眠障害(睡眠相後退症候群、非 24 時間睡眠覚醒症候群)とうつ状態に関連があるのではないかと議論されている。
・神経症性抑うつの不眠には睡眠衛生指導や認知行動療法(CBT)の効果が期待できる。
・極期の内因性うつ病では、睡眠衛生指導や CBT の効果は期待できず、抗うつ薬や電気けいれん療法が有効である。
DSM—5 や ICD—10 におけるうつ病診断(「大うつ病性障害」、「うつ病エピソード」)は、従来のうつ病診断である「内因性うつ病」よりも広い概念であり、非常に多様な病態を包含している。「大うつ病性障害」と診断される場合、「内因性うつ病(精神病の抑うつ・重症)」と「神経症性抑うつ(反応性の抑うつ・軽症)」とを鑑別する。ただし、軽症内因性うつ病に注意する。
従来の診断学では、「内因性うつ病」の心理や発症過程は正常心理から了解できる性質をもたない(了解不能)のに対して、神経症の抑うつ感情は正常心理学の延長線上にあるもの(了解可能)と定式化され、両者間の“質的”な差異が指摘されていた。この鑑別が重要であるのは治療反応性に違いがあるからである。内因性うつ病の場合は、三環系抗うつ薬や電気けいれん療法(modified electroconvulsive therapy;m—ECT)による治療効果が期待できるのに対し、神経症性抑うつに代表される非内因性のうつ状態の場合、三環系抗うつ薬や電気けいれん療法の効果は限定的であり心理療法が重要となる。
神経症性抑うつ(DSM—5 診断としては、大うつ病性障害の一部、気分変調症、抑うつ気分を伴う適応障害など)にもさまざまな睡眠障害が認められるが、内因性うつ病のような一定の特徴をもたないことが多い。内因性うつ病(すべての双極性うつ病+内因性の単極性うつ病)は、神経症性抑うつよりもはるかに生物学的な疾患であり、睡眠障害治療にも両者の鑑別が大切である。
うつ病の睡眠障害には、大きく分けて不眠と過眠がある。うつ病の不眠には、入眠障害、熟眠障害、中途覚醒、早朝覚醒(普段より 2 時間以上早く目覚める)があるが、これらのうち早朝覚醒がもっとも特徴的である。早朝覚醒は、従来から内因性うつ病の症状として認識されており、国際的診断分類上、内因性うつ病に相当する「メランコリア型の特徴を伴うもの」(DSM—5)、「身体性症候群を伴うもの」(ICD—10)の診断基準項目の一つとして取り上げられている。

早朝は抑うつ気分や不安・焦燥などの症状がもっとも悪化する時間帯であり、孤立しやすく自殺にも注意を要する一方で、家族を叩き起こして「お金がない」(貧困妄想)、「とんでもないことをしてしまった」(罪業妄想)などと訴えることがある。日内変動と呼ばれていて、朝が最悪で、夜になると楽になる。
双極性障害の躁状態においても顕著な不眠を認めるが、「3 時間睡眠で十分」・「眠らなくても平気」(「睡眠欲求の減少」)などと述べて、苦痛を感じていないことが多い。また、双極性障害のうつ病相では単極性うつ病に比し過眠を認めることが多く、過眠は双極性障害の指標になり得ると考えられている。過眠を伴ううつ状態では、実際は双極性障害のうつ状態の可能性があるので、躁転に注意する。
双極性障害では不眠、過眠の両方が認められる。非定型うつ病や季節性うつ病においても過眠がみられる。過眠には過食が随伴することが多い。
うつ病の終夜睡眠ポリグラフ検査所見としては、入眠潜時の延長、睡眠持続性の低下、深(徐波)睡眠の減少、レム睡眠潜時(入眠してからレム睡眠が出現するまでの時間)の短縮、レム密度(レム睡眠中の急速眼球運動出現率)の上昇などが特徴である。これらのうちレム睡眠潜時の短縮や深睡眠の減少は、内因性うつ病の生物学的マーカーとして一時注目されたが、不安障害や統合失調症においても見いだされたため、うつ病の特異的所見であることは否定されている。また、うつ病や双極性障害の過眠では、日中も強い眠気を伴うことがあるが、反復睡眠潜時検査(MSLT)において睡眠潜時の短縮が認められず、ナルコレプシーなどの過眠症とは病態機序が異なると考えられている。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの催眠・鎮静作用の弱い抗うつ薬を使用する際は、睡眠薬併用を要することが多いと説明されるが、個人的にはあまり気にならない。
多くの抗うつ薬においてセロトニン(5—HT)受容体への関与や、レム睡眠の抑制効果(レム睡眠時間の減少、レム睡眠潜時の延長)が認められており、うつ病の不眠治療という観点からも理に適っているといえる。なかでも、三環系抗うつ薬である imipramine と clomipramine はレム睡眠抑制効果に優れており、悪夢、多夢にも有効とされている。
内因性うつ病において三環系抗うつ薬が奏効する場合、まず不眠の改善を認める。対照的に m—ECT ではうつ症状の著明な改善にもかかわらず不眠が遷延することがある。この事情については、抗うつ薬は焼け跡の修復過程を援助するだけもので、mーECTは修復しかけの神経回路に小さな火事を起こして焼き払い、新たに構築するものという違いを考えればよい。
また、amitriptyline や trimipramine などの三環系抗うつ薬、mianserin や mirtazapine などの四環系抗うつ薬や trazodone などは催眠・鎮静作用が強く鎮静系抗うつ薬とも呼ばれる。なかでもmianserin や trazodone はせん妄の治療薬としても用いられることが多い。
三環系抗うつ薬は抗コリン作用が強く、せん妄を惹起するため高齢者には不向きである。また、SSRI やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)は入眠障害や中途覚醒を引き起こし、不眠を悪化させることが指摘されている。だから朝に服薬することも考えられるが、実際にはあまり気にしないでよい。不都合があったら調整すればよい。ある薬剤にそのような反応をしたという事実が後々役に立つかもしれない。
抗うつ薬や 睡眠薬 によっても不眠が改善しない場合や、不安・焦燥、不穏が顕著である場合などは、うつ病の不眠治療においても抗精神病薬が多く用いられる。非定型抗精神病薬である risperidone やolanzapine は 5—HT2A受容体の遮断作用による睡眠改善(深睡眠増強)効果が認められている。また、同じ非定型抗精神病薬である quetiapine もヒスタミン H1受容体やアドレナリンα1受容体の遮断作用から優れた睡眠改善効果を示す。olanzapine と quetiapine は以前からうつ病の不安症状の改善効果や、気分安定効果についても知られており、臨床現場では使用頻度が高い。quetiapine はせん妄治療にも用いられる。一方でolanzapine と quetiapine は副作用として顕著な食欲亢進や体重増加が認められることや、糖尿病に禁忌であることには注意を要する。
ドパミン D2受容体部分作動薬である aripiprazole は抗うつ薬の増強剤としても用いられる。ときに不眠を悪化させるため注意が必要であるとはいうものの、あまり過敏になる必要はない。
双極性障害における躁病相とうつ病相の周期や、冬季に悪化する季節性うつ病の存在、内因性うつ病に特徴的な症状の日内変動(朝方に重い抑うつ症状が午後から夕方以降は多少軽くなる)や睡眠障害(早朝覚醒)などから、うつ病と時間生物学的異常(概日リズム障害)の関与が指摘されてきた。概日リズム障害はうつ病の中でもとりわけ双極性障害に特異性が高いといわれる。これは大うつ病性障害(単極性うつ病)が群として不均質であり、内因性と心因性を含むのに対し、双極性障害は内因性に限られ、生物学的基盤が同一だからである。内因性うつ病の場合にはサーカディアンリズム障害が多く見られる。
うつ病では概日リズムの位相変位が議論されている。たとえば季節性うつ病では、概日リズムの位相後退が知られており、朝に高照度の光を照射することにより位相を前進させる治療(高照度光療法)が行われている。また一部の報告によれば、双極性障害のうつ状態や混合状態では位相が後退し、躁状態では位相が前進する。いずれも気分症状の寛解に伴い位相が正常化する。とはいうものの、それ以上のエビデンスの進展はない。実際に診療していて、位相が後退するか前進するかについて強く意識しているわけではない。
断眠療法がうつ病に効果を示すことが知られている。高照度光療法、炭酸リチウム、抗うつ薬を併用するがあまり実施されない。
概日リズム睡眠障害(睡眠相後退症候群、非 24 時間睡眠覚醒症候群)とうつ状態の関連が指摘されている。睡眠相を人為的に遅らせると抑うつ傾向が出現することから、睡眠相の遅れがうつ状態を悪化させる可能性がある。これは内因性うつ病に限らず、反応性うつ病や重度ストレス反応にもいえる。脳の内部のリズムと環境のリズムつまり24時間周期が一致しない。脳の内部のリズムがなぜ環境に合わせて修正できなくなるのか、そのメカニズムが肝心のところだが、あまり簡明な説明はないような気がする。旅行で経験する時差ぼけは、個人差があり、こうしたリズム調整機能と関係していると思う。
睡眠相を人為的に遅らせるとなぜ抑うつ傾向が出現するのだろう。人為的に前進させると躁状態になるだろうか。
脳内リズムと環境リズムが一致しないとき、ある種の敏感状態になっているような気もする。敏感というのは、不安定と言っていいのかもしれない。
うつ病の寛解後も続く残遺症状のうち不眠がもっとも高頻度であり、不眠はうつ病の重症度や再発リスクと関連することが報告されている。しかし、臨床現場では、睡眠薬や抗精神病薬を継続的に内服していれば睡眠にも問題のない例が多く、急性期のような重度の不眠が継続するケースはまれであるという印象がある。これらは内因性うつ病よりも、症状が遷延している神経症性抑うつの患者の特徴を現しているのかも知れない。
うつ病に限らず、精神科臨床において不眠の治療は必須だが、うつ病治療においてもまず第一に不眠への対処が必要である。神経症性抑うつや不安障害に対しては睡眠衛生指導や CBT が有用である。内因性疾患については、睡眠衛生指導や CBTよりも抗うつ薬や m—ECTを選択すべきである。しかし、内因性疾患の場合には、同時に神経症性プロセスが進行している場合があり、その成分については、疾患教育や心理療法が有効である。
・内因性うつ病ではレム睡眠が多くなる。抗うつ薬はレム睡眠を抑制する。
・サーカディアンリズム障害と内因性うつ病は関係があるらしい。
しかし睡眠とうつ病がどう関係しているのか、メカニズムが考えつかない。
・躁状態で不眠になるのは自然だ。うつ状態で不眠になるのは不自然だ。むしろ過眠になるのが自然だ。うつ状態では潜在的に過眠になるが、適応行動として、治療的反応として、不眠になることによって、睡眠中に起こる何かの毒になるプロセスを防止していると思う。
・そうした毒になるプロセスとしてはレム睡眠が怪しい。薬剤でレム睡眠を抑制しても有効だし、断眠療法でレム睡眠を抑制しても有効なのだろう。レム期には脳は何かの仕事をしている。それがうつ病における毒につながっている。
・薬剤でレム睡眠を抑制して、その上で夜の睡眠を改善すれば、神経細胞と神経回路の修復は一歩前進する。
・レム期は不要な神経細胞を選び出し、削り取る作業、つまり逆に言えば、有用な神経回路を残す作業をしているのかもしれない。修復作業において、まだあまり修復できていない時点で、削り取る・刈り取ることが行われると、うまくいかない。だからかなり神経回路が修復されて、削り取り・刈り込みの時期が来るまで、レム期を抑制する必要があるのではないか。
・サーカディアンリズム障害については、脳内のリズムと環境のリズムがずれていて、それらを照合し、修正するというプロセスが壊れていると考えれば、これはシゾフレニーの幻聴や被害妄想の病理に近い。脳内現実と環境現実が一致しないことが病気として現れる。時差ぼけはこの部分の調整機能の性能を反映しているのではないか。
・シフト勤務の人とか、海外取引でアメリカ時間で起きている人、国際線飛行機で仕事をしている人など、サーカディアンリズム調整機能はどうだろう。