認知症「予備軍」治療薬の国内治験開始

認知症「予備軍」治療薬の国内治験開始

 デンマーク系製薬のノボ ノルディスク ファーマは、「認知症の予備軍」に対する治療薬の臨床試験を日本で開始する。このほど発売した糖尿病治療薬「セマグルチド(一般名)」の経口剤の適応を広げるかたちで開発する。糖尿病の治験データなどから、同剤が認知症リスクの低減にも有効な可能性が出てきた。グローバルでは今年6月までに国際共同治験を始める計画で、日本も参加する方針。

 セマグルチドはもともと、2型糖尿病の治療薬として開発されたGLP-1受容体作動薬。最初は週1回投与する注射剤「オゼンピック」が製品化され、1日1回投与の経口剤「リベルサス」も2月に国内発売された。GLP-1作動薬の経口剤は世界初。

 ノボはセマグルチド経口剤を、認知症やアルツハイマー病(AD)の前段階である「軽度認知障害(MCI)」に対する治療薬としても開発する。セマグルチド皮下注や、同社のもう一つのGLP-1作動薬「リラグルチド(製品名・ビクトーザ)」の糖尿病などに対する臨床試験データ、実際に処方された後のリアルワールドデータなどから、GLP-1作動薬を長期投与すると認知症の発症確率が低下したり、記憶障害が改善する傾向が報告された。動物実験でも、認知症やADの一因とされる「リン酸化タウたんぱく質」の蓄積を減少させるデータを得ている。明確な作用機序は未解明というが、これらの臨床・非臨床データを根拠に開発着手を決めた。

 グローバル本社の計画では、MCI~初期のADを対象とする第3相臨床試験(P3)を2本実施し、最大3700人の患者を組み入れる。投与するのはリベルサスと同じ錠剤で、糖尿病治療用から倍増した用量(14ミリグラム)を1日1回投与する。有効性の評価方法は、他社が開発しているAD治療薬の治験と同様の評価スコア(CDR-SB)で、約2年間の症状改善を評価。今年上期中の治験開始を目指している。日本もP3プログラムに参加する予定で、医薬品医療機器総合機構(PMDA)と協議しながら準備中。このP3で承認申請するかは未定だが、すでに多くの処方実績がある医薬品であることから、安全性上の問題はないと期待している。

 ノボはセマグルチドの価値最大化に注力し、多様な疾患に対する治療薬として開発を広げている。日本でも9本のP3が実施・準備中。認知症や糖尿病のほか、肥満症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などに対する開発も行っている。