我々の目の前にいる患者さんはマイナス症状、プラス症状、神経症成分の3つを重ね合わせて同時に呈している

人間の脳の構造の概略は、古いものを部品としてコントロールする部分が上位部分に新しくできることだ。
PCのプログラムでいう、サブルーチンをどう使うか命令を出す部分が新しく加わり、複雑な機能を実行する脳が出来上がる。

新しい部分は、古い部分を、たいていは抑制的に制御している。
促進のためには上位部分の機能停止で対応する。

だいたいこんな構図があるので、
脳血管障害などでどこかの機能が停止した場合に、
そこの部分の機能停止によるマイナス症状と、
そこ以下の部分の機能が抑制されないことによるプラス症状がみられることになる。

例えば、脳血管障害で上位部分が損傷を受けると、
繊細な感情が失われたり、計算ができなくなったり、それがマイナス症状。
普段は抑圧していた怒りやわがままや性欲や食欲がたくさん出るのがプラス症状。

(というような考えを伝統的にジャクソニスムと呼んでいる。)

だから、我々の目の前にいる患者さんの症状は、
脳のある部分が損傷を受けたことによるマイナス症状と、それ以下の部分が脱抑制となった結果のプラス症状が
重なって見えていることになる。

しかも、人間は、状況に応じていろいろな反応を呈するので、
その部分を神経症成分と呼んでいる。

幻聴が聞こえて、死ねとか言われると、怖いし、気分も滅入る。それが反応である。防衛機制とまとめてもよい。
失恋も、配偶者の死も、ストレスだけれども、幻聴はそれ以上のストレスだ。大きな反応が起きて当然である。
したがって、幻聴に対して不安、抑うつ、悲観、などの反応が出るのも当然である。
また、各種防衛機制がみられ、否認したり、から始まって、喪失体験の時の各種反応が時間経過ごとに見られる。

統合失調症の場合、時間が遅れて出現するのうつ状態であれば、うつ状態は反応性のものかと思うが、
うつ病の場合の、うつ病を悲観しての反応性のうつ状態ということになると、
うつといっても何のうつなのか、鑑別力を一段上げないと区別できない。

また、疾病利得ということもあり、うつ病で療養したけれども、疾病利得のゆえにうつ状態が遷延する場合もあり、
どこまでうつ病でどこからが疾病利得に関係した神経症成分か、分離は難しいこともある。

その場合も、病前性格や症状発生の時間経過を詳細にみれば、区別はつきやすいのであるが、
質問紙で、物悲しい気分に丸などとやっていたのでは、区別できない。

ここまでで、我々の目の前にいる患者さんは、
1.病気の部分があるとして、そこの機能停止によるマイナス症状・・・たとえば繊細な感情が失われる
2.そこの機能停止により、下位機能に対する抑制が取れて生じるプラス症状・・・食欲が出すぎる
3.自分に生起したことに対して反応している症状・・・過度に悲観的になり、うつ状態が長引き、仕事ができない

というような
マイナス症状、プラス症状、神経症成分の3つを重ね合わせて同時に呈していると考えられる。

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とは言いながら、
脳の構造として、新しい部分は古い部分を、上位から抑制的に支配する、というのも、
まあ、おおざっぱすぎる言い方であって、
たとえば、並列的に付加される場合も見あるだろうし、いろいろな場合があるだろう。

脳の構造の設計図をまだ完全に解明していないのだから、なかなか細かいことは言えないのであるが、
設計者は神ではなく、脳は進化論的に時間をかけてできたものであるから、
進化論的に考えることが必要である。