下書き うつ病・勉強会#35 ハーディネス(hardiness)

次に、別の教育関係の論文から引用して考察します。

骨折のたとえで骨の強さと弱さを考えたが、ストレスに抵抗する、へこまない精神的な強さはハーディネス(hardiness)、ストレスにへこんで負ける弱さを脆弱性、ストレスを受けた後でへこんだ部分を回復する力をレジリエンスという。

ハーディネス(hardiness)とは高ストレス下で病気にならない人々が持つ性格特性(Kobasa、1979)である。それはタフネスや頑健さとも言える。
ハーディネスを構成する要素としてはコミットメント(commitment)、コントロール(control)、チャレンジ(challenge)の3つがある。
コミットメントは、人生の様々な状況に自分を十分関与させる傾向。というのが分かりにくいですね。自分のことなのに他人事みたいにどうしようもないなあと感じるのではなく、自分事として本気で関わり取り組むということ。と私なら言います。
コントロールは、個人が出来事の推移に対してある一定の範囲内で影響を及ぼすことができると信じ、そのように行動する傾向。自己効力感ですね。
チャレンジは、安定性よりもむしろ変化が人生の常であり成長の機会であると捉える傾向。
とそれぞれ定義されている。
この三つは能動的にかかわるという共通性があると思う。

ハーディネスのストレス反応への強さは3要素がそろって高い時に最も発揮される。

ハーディネス全体および3要素それぞれが高い者が認知的再解釈、問題解決といった積極的なコーピングを多く採用し、さらに、ハーディネス全体の高群は情緒的サポートのコーピングも多く採用する傾向が認められた。

ハーディネス特性を有する人は共通した経験を持つことを報告した。そのことを基礎として、成人のハーディネスを高めるためのトレーニングプログラムが提案された。(どんな経験であるかの説明は書かれていなかったが、以下に示す項目で語られているのだろう。)

ハーディネスは種々の経験を通して後天的に身につけることができる、変容可能なものである。従ってハーディネスを変容させてストレス耐性を高めることが、ストレスマネジメントの一方策となり得る。

コントロールは、大学生活の日常的な経験や、容易に達成できるような克服経験を積むことで高められる。
コミットメントは、重要なネガティブな出来事を克服することで高められる。
チャレンジについては有意差が認められず、ライフイベントの経験を通して容易には変容し得ないことが示され、時間や状況を超えて持続する個人のパーソナリティ特性との関連の検討が必要であると思われた。

ストレス耐性を高めるためには、3要素それぞれ別のアプローチが必要であることが示された。

健康への影響が指摘されているパーソナリティ特性として、タイプA行動傾向、タイプC、楽観性、完全主義がある。

タイプA行動傾向
精力的、 持続的に目的遂行に向かって没頭する行動傾向であり、コントロール、コミットメントとの関連が予測される。心臓病のと関連が言われていた。

タイプC
がん発症のリスクファクターの可能性が指摘されている。感情抑圧と社会的同調性の高さや、抑うつとの関連が指摘されている完全主義。

楽観性はハーディネス全般との関連性が予測された。

ハーディネス3要素を持ち合わせている場合には、タイプCであっても社会的同調性は低く自律性が高いこと、楽観性が高いことが示された。

健常者の10年にわたる追跡調査の結果、社会的同調性タイプと感情抑圧タイプからのがん発症者が最も多いことが報告された。

自律タイプからはがん発症者がほとんどいないことが報告され、タイプCとは対照的な健康なパーソナリティとされている。

楽観性が高いと身体的健康度が高い。悲観的な者に比べて抑うつ的ではない。

ハーディネス3要素が高い場合には、過剰に周囲に同調することなく、自律的、楽観的で、心身の健康に悪影響を及ぼしにくいパーソナリティ特性を備えているとみなすことができる。日常生活で身体活動の必要性を認識し、行動変容する意図を持ち、準備をし、実行し、維持し続けることができる。

ハーディネス3要素が高い人は適応的なパーソナリティ特性を備えているとともに、ストレス反応も少なく、健康的な生活習慣を身につけている。

チャレンジが精神的健康を阻害するという報告もかつてはあったが、ここではチャレンジの有効性が示された。現実的ではないチャレンジもあるからでしょうね。

ストレスに抵抗する精神的な強さは、コミットメント(commitment)、コントロール(control)、チャレンジ(challenge)の3つの要素からなると考えられるというのだが、それでいいのだろうか。三次方程式の解は3つあるというのとは違うのだから、どうしてこの3つだと言えるのか、怪しい。この辺りが心理学の文系らしいところだ。おおらかでいいともいえる。

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こんなわけで、ストレス、ハーディネス、脆弱性、レジリエンスと並べて、言葉の意味を考えることができる。
ハーディネスはストレスに抵抗して打ち勝つ強さ。脆弱性はストレスに負ける弱さ。レジリエンスはストレスによって受けた被害から回復する力。ここではハーディネスは脆弱性と独立変数ではないですね。

骨折でいえば、外力がストレス。骨折しないように外力に抵抗する強さ、つまり骨折しにくさがハーディネス。骨折しやすさが脆弱性。骨折した後で、回復する力がレジリエンス。というイメージです。

ここで、レジリエンス(回復力)は、骨折後に発動するだけではないとも考えられます。事故で一瞬にして骨折する場合はその瞬間には回復力は関係ないですが、じわじわと時間をかけて変形して骨折に至る場合は、変形が起こったときから復元力が働くので、細かく見れば、骨の変形が始まったときから、回復過程は動き始めていることになるでしょう。(つづく)