下書き うつ病・勉強会#4 回復過程の症状

まだ症状についてです。今回は回復過程の症状について。医師が観察できるのは回復過程の症状です。

うつ病の症状の話題としては、次のような回復過程についての提案が引用されることがあります。

グラフということで自然科学的な体裁をとっていますが、注目している内容は主観的なもので、測定不可能です。それでも分かりやすいのは分かりやすい。

さて、この通りだとして、そこから症状間の因果関係とか、どんなことが原因か推定できるかという問題があります。

これは横軸に時間を取ったグラフですから、時間を変数として、症状がどう変化するかを見ています。

少し寄り道になりますが、症状と時間、また症状と場所について説明します。

脳の病気の性質を考える場合、病変の起こった場所による症状と、病変の種類による経過の特徴に着目することができます。

たとえば脳血管障害が起こって、脳虚血になったとします。当然その血管が支配している領域は機能低下します。その場合、ある領域は複数の血管によって血液が供給されていることがあるのでそのことの考慮も必要です。複数血管により血液が供給されているなら一応安心ではないかと思うかもしれません。安心な場合もあるのですが、複数あるということは、どちらも最終的な責任を持たない可能性もあるわけです。特に進化の最先端領域では血管変異も多く複雑になるでしょう。

どの領域の脳虚血が生じたかについては脳MRIで調べることができます。脳虚血発作の場合、時間経過としては急性発症するという顕著な特徴があります。一方、具体的な症状としては、足が動かないとか、手に感覚異常があるとか、ろれつが回らないとか、視界が二重になるとか、味がおかしいとか、頭の中で変な音がするとか、子供の名前が思い出せないとか、病変の場所に応じての症状が出るわけです。これは脳の場所と症状の対応であって、原因との対応ではありません。脳腫瘍ができれば、亜急性の経過を取り、場所に応じた症状が出ます。変性疾患は慢性経過を取ることが多く、やはり場所に応じた症状が出ます。血管障害も腫瘍も変性疾患も、同じ場所なら同じような症状が出るはずです。

ということは、うつ病、躁うつ病、統合失調症などについて、症状の時間経過を見れば、それが血管性か、感染性か、炎症か、腫瘍か、変性か、スローウィルスか、外傷か、物質摂取かなどの推定に役立つのですが、いまのところはっきりしません。たとえば母親の胎内にいるときに母親がインフルエンザに感染したことと関連付けられると議論されることがあります。定時期の母親のインフルエンザは糖尿病など他の病気でも議論になったのですが、これなどは原因と症状発現が20年も離れているので、原因なのかどうか、メカニズムの推定は容易ではありません。

脳の局所の症状としても、それがどのような場所なのかについてもはっきりしません。いろいろな報告はありますが、はっきりしない。たとえば、電力会社が発電して送電線を使い家庭に電気を供給している様子を想像します。停電したとして、発電所の故障や変電所の故障、送電線の故障などを考えると、かなり広範囲にわたって、原因となる場所がありそうです。脳ではいくつもの神経が情報を伝達して機能が成立しているのですから、そのどこかで異変があれば、機能異常が発生するでしょう。その場合、電力で言えば、発電所にあたるのか、送電線にあたるのか、中間変電所にあたるのかそれも簡単ではありません。末梢神経伝達回路では分かりやすいのですが、中枢神経回路については、脳血管障害が起きたとして、その部分はある機能システムの発電所にあたる部分であり、同時にそのすぐそばに別の機能システムの送電線が走っているなどの事情があるかもしれません。

最初に戻って、このグラフの順番から推定できることはないでしょうか。

このグラフは回復する順番を示していますから、早く回復するのは反応性のものではないか、遅く回復するのは病理の根本に近いのではないかなどと考えてみますが、はっきりしません。呼吸器感染症の時に最初に熱が出て、次に咳が出て、という順番で、消えるのも、まず熱が下がり、次に咳が消えるであったとすれば、ウィルスがいるのは同じですから、生体の反応としてまず最初に発熱で反応して、ウィルスを殺そうとする。次に気管支の反応が生じて、ウィルスが気道の奥に入らないように押し出そうとする。そして最初に発熱反応が終了し、遅れて咳が終了する。これは生体の反応の時間差を示しているわけです。生体の反応を症状とみなしている。

骨折したという場合に、骨が折れているから歩けない、それは生体の反応ではないですね。骨折したので痛みが出て安静が必要、熱が出ることもある、骨折部位の感染があったりするとそれについての生体反応もある、経過を見ると、生体反応は先に収束して、骨がくっつくというのが最後に残るのでしょう。

不安、イライラ、憂うつ、根気ない、興味ない、喜びない、生きがいないなどのなかで、生体の反応はどれか、反応ではない本質的な症状は何かと考えますが、よく分からない。うつ病の症状の中でも、憂うつ感は中核症状だと思いますが、これは二番目に消えている。喜び・興味の喪失がもう一つの中核症状だとすると、それは最後から二番目あたりに消えている。

このグラフの解釈としては、まず不安イライラは不眠などとともに主観的に最初に取り除いてほしい症状であるし、周囲の人間にとっても、不安イライラが消えてくれればありがたい。しかも不安イライラは薬がよく効く部分なので早く消失することが多い。そんな事情で一番最初に改善する症状として挙げられているのかもしれない。実際これで患者さんはずいぶん落ち着く。家族の心配も一段落する。

何か体に病変が起こったときに不安とイライラが起こるのは自然なことともいえる。その自然な範囲を超えて病的不安・イライラが生じているのかどうかについてはまた検討が必要になる。しかし反応性の成分も大きそうだと推定できます。

そうすると、あと残ったものを大別して、まず憂うつが消える。次に喜び・興味が戻ってくる。と大雑把に二つのプロセスに整理する。では、病気が発生したときに、憂うつ発生と喜び・興味の喪失は同時なのか、どちらが先なのか。それは知りたいところだがはっきりしない。

不安、イライラ消える→憂うつ消える→根気戻る→興味戻る→喜び戻る→生きがいの感覚戻る、と並べてみると、何となく、不安イライラは脳の低次の機能で、喜びとか生きがいは高次の機能のような感じがします。しかしそれも言葉の問題なのかもしれません。

喜びがなければ生きがいはないかもしれない。興味がなければ喜びはないかもしれない。根気がなければ興味もないかもしれない。憂うつがあるうちは根気がないかもしれない。イライラしているうちは憂うつも消えないかもしれない。というような大雑把な関連は考えられますが、科学的考察ではない。

症状の中で、原因・結果の関係になっているものはないか。また症状の中で、生体反応を症状として分類しているものは内か。病気の本質と最も深く関係している症状は何か。こうしたことの解明には詳細なメカニズムの理解が必要です。しかし、その手前の議論のための手掛かりとしては順番とか連動する割合とか存在する長さとか知りたいことがありますが、やはり測定方法が壁になると思います。(つづく)