下書き うつ病・勉強会#3測定問題

引き続き症状について考えます。

うつ病の症状について構造を考えたいなら、相関分析をすればいいのではないかとの意見はあると思います。いろいろな試みはありますが、結果としてはあまり有意義なものではないようです。症状について測定するときに、たとえば憂鬱ならば、5段階か10段階くらいに分けて、評価してもらいます。その評価方法が正しいか、また測定者は十分に客観的かなどの問題があります。憂うつというものは10段階で評価できるのか。どのような段階設定が妥当なのか。まあ、それを知りたいから、とりあえずわかる範囲で統計を取ってみているというところでしょう。ここでも循環しています。

精神症状を数字として測定する妥当な方法が見つかれば突破口になりますが、今のところは実現していません。

病気の人の主観的な感覚を問題にしている限りは原理的に難しそうです。主観的感覚を反映する客観的値を測定するならば妥協できそうですが、それはうつ発見器を思い出させます。嘘をついているという主観的な認識は測定できないが、そのときに生じる脈拍、呼吸などの客観的要素は測定できる。脈拍が早くなったとして、それが嘘と関係しているかどうかは何の保証もありません。

また、うつ病や躁うつ病は症状が波を描くと考えられているわけですから、フーリエ変換をしてスペクトル分析をするのが定石ではないかとの考えもあるでしょう。もちろんあれこれの試みはあるのですが、それもまた測定問題が邪魔をしています。

一人の人間について、うつ病の程度を数字で評価するのは難しいでしょう。また、妄想について、どのくらい強い妄想化について測定することも困難です。別の人間についての妄想の強さを比較することはさらに難しいでしょう。重症だなあなんて言う印象は形成されるとしても、しかし客観的な測定とはなりえない。

たとえば、うつ病のときには全体的にエネルギー消費量が低下するであろうから、一日のエネルギー消費量を調べてみるとか。脳血流量はどうか、少なくなっているのではないか。脳のある部分のエネルギー消費量が低下しているのではないか。脳活動に特有の代謝産物は使えないか。血中にマーカーを注射して、それがどの部分にどの程度取り込まれているか観察する。脳波は使えないか。MRIで何か測定できないか。

いろいろ考えはあるのですが、成功していません。自分の信念に生涯をかけた研究者は多いと思うのですが、報われていません。状況でいえば、電子顕微鏡がない時代に光学顕微鏡でウィルスを探していたような状況なのでしょう。電子顕微鏡にあたる、なにかの測定手段が発見されるまでは難しいと思います。

しかしそのことを考えるとして、やはり、人間の自意識がどのように発生しているのかを知りたいわけです。自意識が憂うつで苦しいと思っているのですから、それを測定したい。しかしその仕組みがわかっていない。原理がわからなくても、自意識の苦しみの結果生じる物質とかがわかっていればいいのだが、それも分からない。脳活動の結果生じる物質はあるでしょうが、苦しみの結果生じる物質というのも難しいし、何より、脳をすりつぶして物質を抽出しないといけない。それはできない。血液検査で測定できればいいし、それくらい非侵襲的でなければならない。現状で候補となるものは非常に微量で測定がうまくいかない。

それと関連してですが、うつ病は脳の局所の障害なのだろうかという問題があります。大雑把に脳のどのあたりの病変と考えられているとかの紹介もあると思いますが、それが事実として、それが原因なのか、結果なのか、という問題もあります。原因でも結果でもとにかく変化がわかればいいだろうということになりますが、人間の脳の可塑性についてはどうでしょうか。脳血管障害が発生したのちにリハビリをします。それは脳の可塑性を期待してのことです。たとえば、右手の小指を動かす機能に関係している部分が機能停止になっても、脳は別の部分で右手小指を動かすようになります。脳の局所機能は分化しているらしいが、確定的ではないらしいと思われています。脳のどの部分にどの機能があるかという図があります。これは脳血管障害や脳腫瘍の際の機能障害の観察や、昔開頭手術の時に脳の部分を電極で刺激して得られたデータなどが基本です。

脳は進化の最先端部分ですから、個体差も大きいはずです。発達の途中でいろいろなことが起こったとして、本来予定外の部分で、ある機能が担われていることもあるでしょう。右利きもあるし左利きもあるし、本来は左利きなのに訂正された右利きの人もいる。言語処理を考えると日本人が日本語だけを話す場合と、バイリンガルで英語を処理する人の脳の機能分化は差があるでしょう。人種差もあります。日本人はヨーロッパの人と比較して脳の機能分担が違うとかの話はいろいろあります。鈴虫の声は雑音なのかとか。そんなふうに個体差が大きいことを考えると簡単にこの部分が何の機能だとかは言えないところもあるのではないか。

脳血管障害や脳腫瘍の時、どの場所の障害がどの症状に対応しているか、データがあります。脳外傷についてもデータがあります。その中で、うつ病が生じる部分は知られていません。

うつ病は脳の局所の障害ではない。脳の全体を巻き込む巻き込む何かが起こっているのだと考えています。(つづく)