バイオロジカル・サイカエトリーで求められる共感とは,身体医学と同様に,精神障害を経験する人を「脳神経疾患に冒された可哀そうな存在」として位置づける.精神病の経験は容易に理解することができないが,それを自然科学的に一旦距離をおいて「対象化」し知的に理解することで,冷静な観察・介入が可能になる.ここでは安易な共感はむしろ戒められ,常識心理学で対処してしまうことで,その裏に潜む器質性疾患の可能性を見落としてしまう危険性が強調される.このような「共感」を用いれば,どれほど常軌を逸した言動に対しても,相手の道徳的責任を問わずに寛容に対応することが可能になる.
他方の精神療法では,研修医は対象化・知性化とは逆の,同一化・感情移入を学ぶことを徹底的に求められる.