「彼岸過迄」岩波書店漱石全集第十巻1979年第4刷。850円。
明治になって西洋文明を受容し消化吸収してゆくにあたり、大和言葉でもない、漢文調でもない、論理をくっきりと辿ることができて、心理の描写も充分にできる、入れ物としての新しい日本語が必要であった。東京の話ことばを基礎として、輸入概念の表現可能な造語力のある漢字熟語を適正な程度に混ぜて、英語とも、フランス語やドイツ語とも、相互に翻訳に便利な言語である。
現在に至っても通じる日本語なので、漱石のこうした文章がその後の日本語の規範となって現在に至ると感じられる。
一方で、小説の内容としては、人間の動作や思考に微細に注釈を加えるもので、事柄自体の衝撃はないし、思想的な深みも、今となっては感じられない。
昔漱石を読んだころのことを思い出しつつ読んだ。