免疫系と脳神経系の共通の学習・記憶メカニズム

アレルギー反応の代表としてスギ花粉症を取り上げる。不安・パニック反応の代表として電車恐怖を取り上げる。

この両者には、原因として共通なメカニズムがある。免疫系と脳神経系の違いはあるものの、深い学習・記憶のメカニズムの誤発動である。
また両者に共通する治療法として、「だんだん慣れていく」方法があり、アレルギーならば脱感作療法、不安・パニック反応ならば暴露反応妨害法と呼んでいる。

学習・記憶については、学習・記憶の深さを考える。一生のうちに一度だけ起こる深い学習が動物一般で観察されている。
脳神経系で言えば、生まれて初めて目に見えた、目が二つある動くものを養育者だと思う「刷り込み」がある。生まれて初めて見たものがローレンツ先生であった鳥の赤ん坊はローレンツ先生を親だと思って、餌をもらい、行動をまねして、ついて歩く。
免疫系でも、日本脳炎などは子供のころにワクチンを使って免疫を獲得すれば一生その病気にかからなくなる。(集団内からウィルスが排除された結果とも解釈できるが、免疫系のことだけ考えると、一度学習されたら一生続く学習・記憶の一例とすることができる。)
通常であれば、電車は怖いと思う体験があったとして、浅い学習になることはあっても、深い学習にはならない。少し怖いが、日がたつにつれて忘れる。しかし何かの要因で深い学習となってしまった場合には、電車恐怖症となる。
また通常であれば、スギ花粉に接触したとしても、特に危険なわけではないことが分かるので、免疫系の浅い学習・記憶で処理され、日がたつにつれてほぼ無反応になってゆく。しかし何かの要因でスギ花粉は危険であるから、徹底的に排除すべきだ、というような免疫系の判断が深い学習・記憶として定着してしまうと、実際には危険のないスギ花粉に免疫系は大きすぎる反応を示す。そのことでくしゃみ、鼻水、鼻詰まり、目の痒さ、のどの痒さ、全身倦怠感などを呈する。

つまり、本来ならば、浅い学習・記憶で処理されるべきものが、深い学習・記憶で処理されたことが原因と考えられる。さらに深い理由を問うとして、なぜそのような誤作動が発生したかについては種々の要因が考えられるがはっきりしない。

このことから考えれば、治療としては、「だんだん慣れる」方法ではなく、間違った深い学習・記憶を消去するか書き換えるかの方法がよいということになるだろう。しかしそれはまだ分からない。

このように考えてみると、免疫系と脳神経系という違いはあるが、全般に共通点が多いことが分かる。
このことから、免疫系と脳神経系は、学習・記憶について、類似のメカニズムを有しているのではないかと推定される。

免疫系についても脳神経系についても、学習・記憶に関して、いろいろな仮説もあり、年ごとに更新されているようであるが、さらなる発展が期待される。その際、この共通点の考察が役に立つこともあるだろうと思う。

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ついでに書いておくと、最近帯状疱疹で苦しむ人が、若い世代でも急増しているとの話。高齢者ではもとから多くて、最近はさらに増加している。だから50歳過ぎたら帯状疱疹ワクチンを勧められる。それはまあ、そうだろうとなっている。しかし若者でも増えているのでどうしたのだろうと言われている。

概略の理解は、

水疱瘡と帯状疱疹の原因ウィルスは同じで、学名Human herpesvirus 3 (HHV-3)というもので、英語での俗称はVaricella Zoster virusである。これが、今まで感染したことのない人が感染すると、水疱瘡になる。だいたいが子供のころに経験していたものだ。いったん症状が治まると、ウィルスは神経節に住み込む。50歳を過ぎたころに免疫系の機能低下が起こると、帯状疱疹となる。帯状疱疹のとき患部からウィルスは排出される。これが孫に感染して、孫が水疱瘡になることがある。帯状疱疹が帯状疱疹として伝染することはない。

教科書を参照すれば以上のようになる。中高年になって帯状疱疹になるのは、免疫系の機能低下を示すもので、免疫系のケアをする必要があるかもしれない。少数意見としては、帯状疱疹の人から帯状疱疹が伝染するとの意見もあるが、その人の神経節にウイルスが住んでいたかどうかを考えると、住んでいたならば、帯状疱疹になったのは伝染ではなくて、免疫低下の結果である。ウイルスが住んでいなかったとすれば、成人の場合でも水疱瘡になる。最近の若い人に帯状疱疹が増えているのは、ひとつには若者の免疫機能が低下しているからだと言われている。またひとつには、子供のころに水疱瘡にかかった人も、その後周囲に水疱瘡の人がいれば、感染して、発症はしないが、免疫は増強されることがあった。最近ではワクチンのせいで感染者が少なくなり、そのような免疫増強がなくなっているので、結果として帯状疱疹を発症する人が増えているのではないかと言われている。昔はおじいさんの帯状疱疹から孫が水疱瘡になっていたが、最近はお母さんの帯状疱疹から子供が水疱瘡になっていることもある。免疫系機能低下により出現するのは、口唇ヘルペスなども同様である。口唇ヘルペスはVaricella Zoster virusの近縁である単純ヘルペスウイルス1型 (HSV-1)が原因である。これも神経節に住み込み、免疫系機能低下の時に口唇ヘルペスとなる。
こうした様子も、広い意味での学習・記憶と言えないこともない。