下書き うつ病・勉強会#19 躁状態先行仮説-7
うつ病ー躁病ー無症状(DMI)サイクルについて
双極性障害を持つ人の約25%で、うつ病のあとに、軽躁病またはマニーが起こっている(DMI)という、躁状態先行仮説と矛盾するように思われる観察があります。躁状態ーうつ状態ー中間状態(MDI)の順であれば躁状態先行仮説の通りで、説明しやすいと思います。そこでDMIタイプの患者を改めて診断すると、その約80%がBPⅡで、半分は興奮しやすく不安定な気質の持ち主でした。
さらに、双極性障害で初回エピソードがうつ病の人は初回エピソードが躁病の人の1.5倍です。こうした観察は本人の回顧に基づいているのですが、軽躁状態では特に否認や忘却が多く見られることが関係しているでしょう。うつ病の人は否定的に自分の過去を思い出しますし、うつ病ではなかった時期をも、うつ状態であったと評価してしまう傾向があります。
子どもたちに関しての前向き研究によれば、DSMで定義されたうつ状態のあとでマニーが起こっているようです。これも躁状態先行仮説には不利なエビデンスのようですが、しかしうつ状態のときに不安やイライラがしばしば顕著ですから、私たちがマニーの広い定義に含めているような種類の興奮性行動がうつ状態の中に見られていると考えてよいでしょう。そのような患者ではうつ状態は双極性サイクルの本当の始まりではないと考えられます。ブルーな気分が始まりではないようです。
うつ病エピソードは気分の不安定な時期のあとに起こっていることがしばしばです。あるいは、ライフイベントに関係しての感情興奮ストレスのあとに起こっています。それはポジティブなことも、ネガティブなこともあります。カフェインのような刺激剤を使ったあとに起こっている例もあります。不規則な睡眠パターンのあとでも起こります。また、うつ状態のあとに続く軽躁状態/マニーでは、抗うつ剤使用と関係している場合も多いと思います。
軽躁病のメリット
次のような反論もあります。たとえ躁状態のあとにうつ状態が起こるとしても、軽躁状態は現実に有利な点もあり生産的でもある。患者はこうした豊かな時期を愉しめばいいだろう。軽躁病で有害と有益の境界ははっきりしていない。アキスカルならダークな軽躁と晴れの軽躁と言うところだろう。軽躁状態まで薬剤で予防してしまうのは患者の利益に反するのではないかとの考えです。これに対しては、軽躁の有利さはふつう一時的なもので、うつ状態のリスクは往々にして慢性的ですから、やはり軽躁状態は予防したほうがいいと言えます。
抗うつ薬の中止
抗うつ薬誘発性躁病は躁状態先行仮説とよく一致しますが、抗うつ薬の中止に引き続くマニーは、躁状態先行仮説に一致しないのではないかとの反論があるでしょう。
抗うつ薬誘発性躁病はしばしばに見られるもので、薬剤によっては50パーセントという報告もあります。これは理屈に合っているのですが、その逆もあって、抗うつ薬の中止に引き続きマニーが起こることがあります。これが5-10%と報告されている。抗うつ薬をやめればうつになりそうですが、その逆にマニーが起こるというので説明が難しい。
普通に考えると、SSRI連用でセロトニンレセプターがダウンレギュレーションで少なくなってしまい、そこに急激なSSRI減量が重なると、セロトニン伝達が少なくなってしまうと考えられます。つまり、SSRIでセロトニンが多い状態が普通になっているので、SSRIを急にやめるとセロトニンが足りなくなってしまい、うつになると思われる。しかし逆の現象が起こることの説明が必要となります。この現象は、何を意味しているか、さらに探求が必要です。
躁うつ病がかなり安定して、中間状態が続いたので抗うつ薬を中止しようとする。するとその時期はマニーが起こりやすい時期とも考えられる。つまり、抗うつ薬中止がマニーを引き起こしたのではなく、次のマニーが発生しつつあるときに抗うつ薬をやめたと考えられ、そのあとにマニーが明白になるのは当然と考えられるでしょう。
離脱症状または退薬症状としてのとらえ方も問題になります。さらには依存形成との関連で禁断症状が問題となる場合もあります。抗うつ剤よりも抗不安薬やアルコールで問題になるのですが、パロキセチンでは特に離脱症状が問題と言われた時期がありました。さらには依存形成型の各種非合法薬物などで問題になります。この場合にもうつ症状を呈することがあります。これらは急激な神経伝達物質の増減で説明できるのではないでしょうか。(つづく)