下書き うつ病勉強会#81 うつ病の回復過程のチャート

どこにでもある図なんだけど、自作してみた。

だいたいみなさん、患者さんに気を遣ってか、治療期間を短く書きがちだと思う。

きちんと時間をかけて治療することが大切だと思う。

寛解と回復は、今回のエピソードが終わりという時点で寛解、

もっと長期的にうつの再発はしばらく起こらないかなと思われる時点で回復というべきなのかな。

こうした回復過程で見えているのは「うつ」ではなく、「うつに対する回復力、レジリエンス」ですね。

研究する人は「うつ」の力が、どのような順序でどのような強さで働いているのか見たいはずで、すがそれはなかなか難しいのが現状です。

図の左側が、「うつの力」と「内的回復力・レジリエンス」が戦っている場面なんですが、そこを詳しく知りたいと思うわけです。

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うつの回復の図については、これはどんなうつの場合の回復図なのかという質問があると思います。

いろいろなうつがあるわけで、たとえば単極性うつ病、双極性障害、心因性うつ病、急性ストレス反応性うつ病、慢性ストレス反応性うつ病、神経症性うつ病、性格因性うつ病、状況因性うつ病、統合失調症増悪後のうつ状態、各種身体病に続くうつ状態、薬剤に原因するうつ状態、これらの場合に、治り方はどうですかということになる。

よく言われていることは、病前性格が、メランコリー親和型、または執着気質である場合には、上記の図のように典型的な治癒過程が予想される。しかし神経症性うつ病、抑うつ神経症、性格因性うつ病などの場合には、もっと長くかかる。

背景に気分変調性障害(ディスチミア)がある場合には、治癒プロセスがかなり違う。非定型うつ病の場合にも、違ってくる。

このようにいろいろな場合に違うのは、「うつ」が違うのだろうか。それとも、その周囲の条件が違うので、発症や回復が違うのだろうか。それについては次回以降で扱う。

とりあえず、大きな話題となるのは、内因性ーメランコリー親和型性格ー執着気質と連なる一群と、心因性ー反応性ーストレス性のうつとは違うのだろうかという点である。昔から、心因性ー反応性ーストレス性のうつの場合には、原因がなくなれば、うつもなくなる、うつの深度としても浅い、うつの期間も長くない、ほどほどのところで治ってゆく、と認識されていた。しかし、心因性として発症したと見えるうつ病が、原因が消えてからも続き、ちょうど内因性ーメランコリー親和型性格ー執着気質のタイプと同じような経過をたどるものがある。

このことは二つの解釈ができて、(1)もともと内因性の素質のあった人に、心因性うつが開始した場合。それならば、内因性うつの経過をたどるはず。(2)もともと内因性の素質のなかった人でも、心因性うつがきっかけで、内因性うつを発症していることはないのか?つまり、心因性うつで始まって内因性うつに移行するケースがあるのではないか。

(2)のように考えると、ドイツ医学的伝統に従ってうつの区別をしているよりも、DSMのように、心因性と内因性の区別なく、2週間以上、日常生活に支障がある、としたほうが合理的だ。

そもそも内因性ーメランコリー親和型ー執着気質のタイプのうつ病はどのくらい存在するのか、それは幻ではないのかというところまで問題になる。昔偉い人が言い始めて、言われてみたらみんなでそんな気がして、次第にみんなが納得して、共同で真実だと確信して議論し、大変満足していたのだが、DSMという黒船が来襲して、内因と心因なんて分けてもとくに意味ないでしょ、分けても別に構わないけど、煩雑なだけでしょ、となってしまった。

学者は抜け目ないので、そのあたりの変化を医学史として何度も書いてたくさん論文を作る。書いてあることは、二歩進んで一歩下がってという感じで、内因性はかなり良かったけど、これからはDSMでも問題ないし、治療でも特に違うこともないから、それに研究用に使うことも必要だから、それでいいよねとの傾向のようだ。臨床家としては治療法に特に大きな違いもないので、あまり気にしない。難治例とか困難例に行き当たったときに参考にする程度であるが、難治例のどのタイプだと分かったからと言って、何か効果的な対策があるわけではない。難治例と呼んでいるのだから当然のことだ。

あと、問題は、単極性うつ病と双極性障害のうつ状態で違いがあるかという点である。私は個人的には少し違うだろうなと感じているのだが、自分の理論(MADKON理論)から言えば、異質のうつ病とも言い難いという矛盾に悩まされている。個人的な最近の結論としては、両者の違いがあるという感覚は、前世代から伝えられた共同幻想である、十分に覚醒した状態であれば、両者の違いはないと答えるだろう。私が両者を異質と感じているのは、遺伝歴、成育歴、遺伝歴よりももう少し広い意味で・環境としての意味も含めて・家族についての情報、性格傾向、これまでの治療歴、薬剤に対する反応、アルコールとか逸脱行動とか、それからあいまいなものだけれども、なんといっても人格の手触りである。どれもこれもあいまいなものであって、現在は徐々に内因性ーメランコリー親和型ー執着気質という共同幻想から覚醒してゆく途中なのだろう。

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いろいろなうつは同じものなのか違うものなのかと考える。類似があるから「うつ」という言葉を当てはめてみんなで共有しているのだろう。ということは脳内のメカニズムとして同じものを指している可能性が高い。

まったく別の脳内プロセスが、同じ一つの「うつ」を表現型として呈するとは考えにくい。たぶん、共通の脳内の物質プロセスがあるから、それとらえて「うつ」と呼んでいるはずだ。

これを脳の階層で考えてみる。(1)細胞内情報伝達システムとかシナプス部分での情報伝達とか、細胞内での情報変形システムとか、そのような神経細胞レベルの問題、(2)一群の細胞が脳内でサブルーチンとして働く単位となる場合、(3)下位サブルーチンを活用して新しい活動をする場合、(4)脳全体、(5)遺伝子。エピジェネリックなどと言う場合、DNAやヒストンへの後天的な化学修飾を通して、塩基配列の変化を伴わずに遺伝子発現が制御される仕組みである。したがって、遺伝子レベルでのうつ状態も考えられることになる。

少し前まではシナプス間隙での話が多く、また昔から多かったのは、視床下部-下垂体-コルチゾールシステムの話だった。最近はさらにいろいろと難しい話が多く、初心者にはなかなかイメージがつかめない。

元気がないというなら、腹が減ったときもそうだし、試験がうまくいかなかったときもそうだし、これから嫌な人に会わなければならないときもそうだし、躁状態が終わったときも、統合失調症の増悪気が終わったときも、マラソンで力を出し切ったときも、てんかん発作の後も、何かの意味で元気がないので、共通経路があるはずだと考えてよいだろうか?もちろん、そんなことはない。ただ人間の言葉で元気がないと一括しているだけで、脳内の状態を正確に報告しているわけではない。

ではうつの場合はどうか。脳内での共通事象を指して「うつ」と呼んでいるのか、あるいはそんなこととは関係なく、元気がないとか、エネルギーがないとか、ネガティブとか悲観的とか自信喪失とかいろいろな事象を連想も含めて、「うつ」と呼んでいるのか。

たぶん、「うつ」という言葉の輪郭はあいまいに拡大しすぎていて、脳内の複数の別々の現象をうつと呼んでいるような気もする。「vitale」と条件を付けて絞ってみても、それが脳内の特定の現象と関係があるとも信じられない。

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うつの場合には、躁うつという特徴的な現象があるので面白い。うつと躁は反対だと説明されるが本当に反対なのだろうか?

甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症のように反対なのだろうか。うつは(一時期まで)セロトニンが少ないと言われていたが、躁はセロトニンが過剰だとは言われていなかったし、躁状態のくすりは、セロトニン抑制剤ではない。

たとえば、躁の存在が本質であって、うつは躁の不在を意味するにすぎないとしたらどうか。躁は大火事に似たもので、あたりを燃えカスにしてしまう。躁が終わった後は、その場所はうつに見える。うつの中で、レジリエンスが着々と復興の仕事を進める。

てんかん発作後でも、統合失調症の増悪期でも、火事の焼け跡の景色になるので、躁状態の火事の後の景色に似ているはずだ。それを単に「うつ」と呼んでいるのではないか。

もちろん、単極性うつ病もあると思うけれども、うつが始まるその現場を治療者が目撃することはない。ひょっとしたら、単極性うつにも、「火事」に相当するエピソードがあって、治療者が目撃するのは焼け跡なのではないか。

そんな風に思うんですよ。

躁うつ混合状態状態とかラピッドサイクラーも、問題ですね。正反対のものが混じり合って症状に出るって、いったいどういうことなんでしょうか。

例えば、甲状腺で、一部の細胞は甲状腺ホルモンを出しすぎて、一部の細胞は甲状腺ホルモンを出さないとします。それでも、甲状腺ホルモン分泌混合状態とは言わないですよね。多い部分と少ない部分があるなら中くらいになるんでしょう。甲状腺ではラピッドサイクラーとも言わない。ホルモン分泌腺の性質としてそれほどラピッドな動きはしないということなんでしょうか。しかし、躁とうつについてはラピッドである。

そこから考えると、まず混合状態については、感情や運動やそのた機能をつかさどる部分は脳の中でかなり離れていて、隣の分泌細胞の分泌の多寡とは関係がない状態で、つまり、どの部分は過剰、どの部分は過少という具合に、言えるくらい、遠い場所にあるということなんだろうね。ということは、病理は場所によるのではないということだ。

脳の病理は、半分は場所による病理ですよね。悪性腫瘍とか脳血管性障害とかでも、時間特性は病理を反映するけれども、症状の種類を決めているのは、脳のどの場所で異変が起こっているかということですよね。混合状態というのは、ある程度離れた場所で、躁とうつが発生しているということになるのかな。

何の話かというと、甲状腺のように、場所が決まっているなら、混合状態というのは起こらないはずでしょう。

うつの原因と躁の原因が混じり合ったりしないくらい離れた場所にあるから、混合状態になるはず。

躁うつ混合状態状態について考えると、躁とうつが反対向きの力というのも説明しにくい。躁とうつの脳の場所が近い場所にあるというのも考えにくい。

もし、磁石のN局とS局のように、躁の力とうつの力があるのなら、躁とうつの力が打ち消しあって、躁でもないうつでもない、正常状態が生まれている可能性もある。そのことと、躁の力もうつの力も働いていない場所での正常状態は同じではない可能性がある。少なくとも、緊張状態は感じられるのではないか。

こんなことから考えると、躁やうつは、脳のどこの場所がどうしたというものではないような気がする。

もう一つは、病理として、炎症性なのか、腫瘍性なのか、血管性なのか、変性疾患なのかというあたりの問題。まったく手掛かりもないので「内因性」という言葉で仮に表現している。

しかしこの内因も、統合失調症と躁うつ病ではかなり違いがあって、クレペリンの場合、シゾフレニーは崩壊性、MDIは循環性であった。

しかしながら、最近ではDNA研究から、統合失調症と双極性障害の近縁性が明らかとなり、単極性うつ病はすこしDNAとしては遠いということらしい。

ということは、統合失調症と双極性障害が崩壊性であり、単極性うつ病が循環性であると言えるのかもしれない。

実際、双極性障害の経過を見て、すっかり元に戻っているというではなくて、それなりのレベルダウンを伴うものもあるように思う。

これは反復するてんかん発作が脳にとって崩壊的というのと同じ現象ではないかと思う。

統合失調症と双極性障害とてんかんは、過剰な放電が生じ、脳細胞を破壊する働きがあり、崩壊性である。一方、単極性うつ病は循環性であり、一度一度のエピソードの結果、大きなレベルダウンは引き起こさない。ただ、実際には、単極性うつ病と思われていたものも、双極性障害と診断すべきものがかなりあるだろうから、単極性うつ病でレベルダウンを伴う法改正のものもある程度多いと思う。

大人になって知的または人格的にレベルダウンする例は案外多いと思う。その場合に何が起こっているのか、厳密には分からないが、潜在的に統合失調症、双極性障害、てんかんの場合の崩壊性病理が起こっている可能性も考えたほうがよいのではないだろうか。

そしてそのような崩壊性病理の生じた場所で、不都合を感じることがうつ病の発症であり、修復・再建をすることが治療であるということになる。治療は、自己治癒力を邪魔しないで助けることが主眼となる。

双極性障害の場合に崩壊性のメカニズムを説明するのがMADKON理論である。

てんかんは突然発生する激しい電気的な興奮が神経細胞を崩壊させてしまう。何度かの発作の後の脳の断層撮影では委縮所見がみられる。

統合失調症の増悪時の場合に神経細胞崩壊が起こる。それを防ぐために予防的投薬が必要なのであるが、長くなると飲み忘れたり、自覚がう透けたりして、薬剤のコントロールが悪くなる。するとまた増悪時の神経細胞崩壊が起こる。こうしてレベルダウンしてゆく。

双極性障害の場合の、躁状態のときの病態はてんかんや統合失調症の場合の興奮状態に似ている。神経細胞が障害されて、崩壊性の病態となる。

ここまで、てんかん、統合失調症、双極性障害の躁状態のついては崩壊性病理とまとめられるだろう。

単極性うつ病の場合にどうかが問題である。実際に、単極性うつ病の診断は不安定なものであり、躁状態が発見されれば双極性障害となり、躁状態ではないまでも、軽躁状態であったり、病前性格としての熱中性や精力性(Manic)や制縛性(Anankastisch)が見られれば、双極スペクトラムとして考えてよい。だとすると、本当に単極性うつ病というものは存在するのだろうか。

怒りっぽいとか、そのあたりがあれば、双極スペクトルでいいだろう。几帳面という性格は、容易に熱中性に通じるのであって、実際には熱中性と混合されている場合が多いだろう。

そう考えると、単極性うつ病と見えていたものが実は双極スペクトルの一つであることは少なくないと思われる。

個人的な観点から言えば、単極性うつ病の場合にも、「火事」にあたる何かがあるのだろうと考えているが、それは自分にも他人にもよく分からないものなのかもしれない。しかしそれを見つけ出すことができればと思っている。単極性うつ病の場合にもやはり「火事」が起こっていると思うのだが。