下書き うつ病勉強会#109 Depression and sickness behavior-2

前回#108の論文の 表1を再度提示する。

とても単純に考えると、人間の脳を古皮質、旧皮質、新皮質などと、系統進化に従って分けたとして、ここでいう Sickness behavior は古皮質と旧皮質で発生していることであり、Clinical depression は新皮質も参加しての病態であると考えられる。Sickness behavior として対応なしで『ー』となっている項目は、新皮質も参加しての病態であり、主に自意識の活動が関与しているものと考えられる。Feelings of worthlessness or guilt などは動物について確認しようもない。行動として確認できるものがあれこれ挙げられている。

Suicidal ideation or behavior については、場合によっては、人間以外でも確認できるかもしれないが、それは単に気力体力が衰弱しているのか、もう死んでもいいとの判断の結果であるかは判定が難しい。もちろん、動物がもう死んでもいいと意識して自覚するはずもないのか、あるのか不明だが、動物の場合、行動として観察できることはあるかもしれないと思う。

そうだとしても、表を眺めていて、日内変動や早朝覚醒は観察可能で、自意識の活動を必要としていないもののように思われる。ここが説明しにくい。

人間はSickness behaviorとして不眠になることが多いが、動物は過眠になるらしい。人間で過眠になるのは非定型うつ病であるが、食欲など、その他の項目は当てはまるわけではない。日内変動も人間に特有なものという。体を休めて、傷や感染症から立ち直ろうとするなら、よく寝たほうがいいと思うが、人間の場合だけ、なぜか、睡眠が毒として作用して、その結果、不眠と早朝覚醒、日内変動が生じる。人間のうつの早期の場合、睡眠は毒であると考えられるのではないか。なぜなのか。どういう事情なのかはよく分からない。

Table 1 Characteristics of depression and sickness behavior.

Clinical depressionSickness behavior
Basic symptomsDepressed mood most of the day
Decreased interest or pleasure in almost all activitiesDisinterest in social interactions
Anorexia, and/or significant weight loss or weight gainAnorexia and weight loss; no weight gain
Insomnia or hypersomniaSleepiness
Psychomotor agitation or psychomotor retardationReduced locomotor activity; no agitation
Fatigue or loss of energyLethargy
Decreased ability to think or concentrateFailure to concentrate
Existential symptomsFeelings of worthlessness or guilt
Suicidal ideation or behavior
Melancholic dimensionA distinct quality of depressed mood (anhedonia)Reduced intake of sweetened milk (anhedonia)
Non-reactivityBehavioral inhibition
Diurnal variation
Early morning awakening
Psychomotor retardationReduction of locomotor activity and exploration
Excessive weight lossImportant weight loss
Anxiety dimensionTension; physiological behavior; respiratory symptoms; genitourinary symptoms; autonomic symptoms; anxious
behavior at interview (general)
Anxiety
Physiosomatic dimensionFlu-like malaise; aches and pain; muscle tension (in some of the patients)Malaise and hyperalgesia (key symptoms of sickness)
PyrexiaSlightly increased body temperaturePyrexia
Onset CourseInsiduousAcute onset
Waxing and waning or relapsing-remittingAcute adaptive response, maximal 19 to 43 days
ChronicMay be prolonged, but then is maladaptive
Sensitization of episodes
Seasonal variation
(Hypo)manic episodes
Pathways(Sub)chronic inflammation with increased PICsAcute inflammation with increased PICs
CMI activationActivated
Sensitization of inflammatory and CMI pathways
Activation TRYCAT pathwayMaybe activated TRYCAT pathway
O&NS (ニトロソ化ストレス,oxidative and nitrosative stress)Unknown but probably yes
Damage by O&NS
Autoimmunity
Neuroprogression
TriggersMultiple, not well definedAcute, highly defined
Psychosocial stressors, medical inflammatory llness,neuroinflammatory disorders, inflammatory conditionsAcute pathogens and tissue injury
Episodes tend to become autonomous from triggerIs always a response to a defined trigger
GeneralInflammation-related chronic progressive disorderInflammation-induced adaptive behavioral response that is conserved through evolution
PICs’ JanusfaceBad ‘chronic’ side: a chronic disorder with positive feedback loops neuroinflammatory disorders, inflammatory conditionsGood ‘acute’ side: supports inflammation, redirects energy to immune cells, conserves energy and prevents negative energy balance, helps eradicating the trigger, and has anti-inflammatory effects
CMI, cell-mediated immune; O&NS, oxidative and nitrosative stress; PICs, pro-inflammatory cytokines; TRYCAT, tryptophan catabolites.

夢と薬剤の関係について、以下のような記事がある。

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悪夢を起こす薬剤
悪夢は睡眠時随伴症 (Parasomnias) のひとつで、レム睡眠の時に起こる。真に迫った恐ろしい内容の鮮明な夢による強い不安のために, 睡眠から途中覚醒する現象で、睡眠障害を起こす。 一般に小児に多く、発熱, ストレス, 過労やアルコール摂取後などにも起こりやすい。 また, 薬剤によっても頻度は低いが, 副作用として悪夢を起こすものがある (表1)。 高齢者ではしばしば夢の内容に対応した行動が起こり, 認知症やせん妄と間違われることがあるので注意を要する。 通常は, 薬剤の中止や変更により悪夢は起 こらなくなる。
[薬剤による悪夢の発現機序]
大半の薬剤について、 悪夢の発現機序は解明されていないが, 脳内神経伝達物質のセロトニン (5-HT), ノルアドレナリン, アセチルコリン、ドパミンへの影響が示唆され, その他にGABA (y-アミノ酪酸),ヒ スタミン等も関与していると言われている。
レム睡眠の発現は、セロトニン神経系, ノルアドレナリン神経系で抑制され, アセチルコリン神経系によ り促進される。したがって、 例えば中枢性 β 受容体・セロトニン受容体遮断作用を有する β 受容体遮断薬は, レム睡眠を誘発し, 夢を見やすくなる。
また、ドパミン神経系は夢に関連する精神的活動を賦活するので, 抗パーキンソン病薬 (ドパミン作動薬) により悪夢を起こすことがある。
その他、三環系抗うつ薬やベンゾジアゼピン系薬はレム睡眠の発現を抑制するが, 連用後の急激な減量や 投与中止は、レム睡眠の反跳的増加 (発現回数の著明な増加や持続時間の延長)により, 悪夢の発現回数が 増加する。
〔薬剤により悪夢が発現した症例〕
1プロプラノロールによる悪夢
脂溶性が高い β 受容体遮断薬(プロプラノロール, メトプロロール等)は血液脳関門を通過しやすく, 中枢神経系の副作用が起こりやすいとされていたが, 否定的な意見もあり,一定の見解は得られていない。
(症例)
72歳女性。67歳より狭心症のため,プロプラノロールを1日30mg服用。 服用開始後から恐い夢を見 るようになり、その度に驚声をあげ、家族や友人を起こしてしまうこともあり、だいたい寝てまもなく の時間帯に多く起こることが判明した。 薬原性を疑い, 塩酸メキシレチンに変更したら、悪夢は見なくなった。
2 ゾルピデムによる悪夢
20歳男性。 自動車事故で入院し,左前頭頭頂骨折等に対して複数の整形外科的手術を受ける。特記すべき既往歴はない。 事故後12日目頃より,不眠のためゾルピデム5mgの服用を開始したが,効果が不十分で10mgに増量し、3日間服用したら、 毎晩, 鮮明な夢を見た。 恐ろしく, 不安を起こさせる悪夢で, 事故後このような夢は初めてであった。 外傷性ストレス障害(PTSD) 等が原因とは考えられず, ゾル ピデムを中止したら、 悪夢も起こらなくなった。
表1 悪夢を起こす薬剤(主な商品名)
〔内用薬 〕
β受容体遮断薬
アテノロール(テノーミン), オクスプレノロール(トラサコール), カルテオロール(ミケラン), ピンドロール(カルビスケン),プロプラノロール (インデラル), ベタキソロール(ケルロング), ペンブトロール (ベータプレシン),メトプロロール(セロケン, ロプレソール)
降圧薬
メチルドパ(アルドメット), レセルピン (アポプロン, 大量または長期投与), レセルピン配合剤(エ シドライ, ベハイドRA, 大量または長期投与)
ベンゾジアゼピン系薬 類似薬
クアゼパム(ドラール), ゾピクロン(アモバン), ゾルピデム(マイスリー), トリアゾラム(ハル シオン), ハロキサゾラム(ソメリン), フルジアゼパム (エリスパン), メキサゾラム (メレックス), メダゼパム (レスミット), ロルメタゼパム (エバミール, ロラメット)
抗うつ薬
クロミプラミン (アナフラニール), セルトラリン (ジェイゾロフト), タンドスピロン (セディール)
トラゾドン(デジレル, レスリン),パロキセチン (パキシル, 特に突然の投与中止または減量) マプロチリン(ルジオミール)
抗パーキンソン病薬
アマンタジン(シンメトレル), セレギリン(エフピー), タリペキソール(ドミン), ドロキシドパ
(ドプス),プラミペキソール(ビ・シフロール)
抗精神病藥
クエチアピン (セロクエル)
抗アレルギー薬
エピナスチン(アレジオン), フェキソフェナジン (アレグラ), モンテルカストナトリウム(キプ レス, シングレア)
抗HIV薬
アタザナビル (レイアタッツ), エファビレンツ(ストックリン), エムトリシタビン(エムトリバ), エムトリシタビン・テノホビルジソプロキシル配合剤 (ツルバダ), サキナビル(インビラーゼ,フ ォートベイス),サニルブジン (ゼリット), ダルナビル (プリジスタ), テノホビルジソプロキシル (ビリアード), デラビルジン (レスクリプター), ネビラピン (ビラミューン), ラミブジン・アバ カビル配合剤(エプジコム), リトナビル(ノービア), ロピナビル・リトナビル(カレトラ)
その他
オキシコドン(オキシコンチン, オキノーム), シプロフロキサシン(シプロキサン), ドネペジル (ア リセプト), バルガンシクロビル(バリキサ), フルコナゾール (ジフルカン, 過量投与), メフロキ ン(メファキン), モキシフロキサシン (アベロックス)
[外用薬]
チモロール(チモプトール), ニコチン(ニコチネル TTS), ブプレノルフィン (レペタン)
[注射薬]
ガンシクロビル (デノシン), クロミプラミン(アナフラニール), ケタミン (ケタラール), シプロフ ロキサシン(シプロキサン),ブスルファン (ブスルフェクス), ブプレノルフィン (レペタン), ブト ルファノール(スタドール), フルコナゾール (ジフルカン, 過量投与),プロプラノロール (インデ ラル), ホスフルコナゾール(プロジフ, 過量投与), ミダゾラム (ドルミカム), レセルピン(アポプ ロン, 大量または長期投与)
※添付文書の副作用に悪夢, 魔夢, 多夢,異夢, 異常な夢と記載があるもの。
その他,HMG-CoA還元酵素阻害薬でも報告されている。

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夢はレム期に見るのだから、うつの早期にはレム期を抑制する睡眠に役立つ薬を使えばいいはずだ。SSRI,SNRI,ドパミンブロッカーはこの点で有用である。うつに対しては断眠療法があるくらいなので、寝て悪化するくらいなら、断眠したほうがいいのではないかとの考えにもなるようだ。断眠療法は、断眠しているうちは持ち直すが、そのあとで寝るとまた悪くなるようで、治るということとは違うようだ。ずっと寝ないわけにもいかないので、断眠療法は行き止まりだ。ただ、レム睡眠を抑制するなら少しはいいかもしれない。ひょっとしたら、レム睡眠の時期に何か毒になることが起こっているのかもしれない。

食欲については、人間の定型的うつ病で食欲不振、動物の Sickness behavior でも Anorexia と出ているので共通らしい。『病原菌の成長・複製に必要な栄養を制限するので,病原菌の増殖を抑えることができる』と説明されているのであるが、あまり納得できない。栄養を取るのと、筋肉も消化管も休めるのと、どちらが得か、天秤にかけるのだろう。食べたものが毒だったということも大いにあると思うので、とりあえず絶食しておいたほうが害は少ないのだろう。しかし免疫能力は低下すると思うので、どちらを取るかだけれども、結局、ヒトを含めて動物は食事制限を選択しているので、そちらのほうがいいのだろう。周囲にある食べ物は危険ということなのだろう。

系統発生的に、病気で弱ったときには、あまり動かず・よく寝て・不食となり・体温が高くなる、といった反応が起こるような回路がセットされているとすれば、人間もその回路が働くことがあり、それは風邪とか腹痛とかと関係づけられて、病気だから元気がない、顔色が悪いと解釈されているのだろう。

そのような、動物と共通のうつ状態というものもあるのだろう。しかし、中核的・定型的・内因性うつ病の少なくとも一部は違うような気がする。内因性うつ病は新皮質を巻き込んだ状態で、人間に特有なものなのだろう。

こうして考えると、中核的・定型的・内因性うつ病とは別に、動物と共通の sickness behavior としてのうつ状態を考えてもよいはずである。現在、うつ病と糖尿病とか、新型コロナ感染症とうつ病とかが話題になる。そうしたものは、一部は sickness behavior として解釈できるはずだ。しかしまた、先にうつ病が発症して、その後に糖尿病になったケースなどは事情が別になる。この場合には、先行したうつ病が、新皮質を巻き込む内因性うつ病のケースと、古皮質と旧皮質の部分で発生しているうつ病( sickness behavior )のケースがあり、その後に糖尿病が発生しているので、事情は複雑になる。

私の考えでは、前者は
躁状態・てんかん発作・統合失調症増悪発作などの神経細胞損傷の事態において、回復過程として(内因性)うつ病が観察されるもので、その場合に、糖尿病の発生が増えるものかどうか、因果関係の推定は難しい。

後者は、外傷や感染の後の回復過程としてのうつ病( sickness behavior )ということになる。この場合には、糖尿病の発生は増えるような気がする。

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sickness behavior を観察している場合のうつ病は、自律神経失調症と近いものと理解してもいいのかもしれない。動物というよりは植物に近い感じになるとも考えられる。

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多産多死と少産少死を比較すると、多産多死では個体が死んでも、病気になって,動作が鈍くなった個体を保護する意義は乏しい。少産少死では、わずか一頭の損失も重大な損失となるので,大切に子育てを行う。結果として,病時行動を採っている個体にも,ケアと保護のための努力を払う。

この辺りについては、個体とは何かの観点が必要だと思う。いつも群れて飛ぶ鳥、群れて泳ぐ魚、群れて移動する平原の動物、これらは、群れの全体が一つの動物のようなものになる。細胞が一個死んだとしてもさして気にかけない。お互いを家族として明確に認知しているような動物は、仲間の死に関してもっと深刻だろう。

生物によっては、富栄養状態では個別の生物として生き、乏栄養状態では集団の中の一つの細胞となって、例えば、人間で例えれば、肝臓細胞の一つになるとか、生命の形態を変化させるものもある。

人間の場合でも、軍隊組織を作れば、個人は一つの細胞になってしまい、一人の死は相対的に軽くなるだろう。組織化と個別化の間にはこのように背反する関係がある。組織化が高度に進行すると、個体は細胞の役目しか果たさないので、多産多死の生物では、 sickness behavior もなくなってくるのかもしれない。

人間の場合には、 sickness behavior を利用して、他人からのサービスや気遣いを確保するような面があると思う。中でも、死ぬほどではないが、精神も身体もいつも不調であるという場合、相互扶助的な社会の中で、どのような立場が得られるか、問題になる。福祉社会と新自由主義社会の対立のようなものだが、制度があれば、それを悪用し、寄生する個体が発生するのは、必要悪というか仕方のないコストなのだろう。

動物の場合、傷を負った個体が、自分はもう治癒の見込みはないし判断し、集団のお荷物になってほかの個体も犠牲になるのは申し訳ないから、あと何日かは生きられるかもしれないし、ひょっとすると回復してその先も生きられるかもしれないが、ここで死んだほうがいいという判断をすることはあるのだろうか。集団としての生存可能性はそれで上昇するかもしれない。一方で個人の集団への忠誠心は減少するだろう。集団が生き残るためには、弱い個体は死んだほうがいいという考えは、優生思想とかナチス的思想とか、あるいはもっと目立たないソフトな形で、あると思うが、それが現実だとする考えから、それは自然界の仕組みのような装いをとって現れた一部集団のエゴイズムだとの考えまで、いろいろとあるのだと思う。