<ネット依存 コロナ禍の子どもたち④>
「偶然から始まった研究なんです」。東北大加齢医学研究所の所長、川島隆太(63)が振り返る。
◆学ぶ意欲の伸ばし方を探っていたら気付いた
子どもがスマートフォンを長時間使うと、脳の発達が阻害される—。衝撃的な結論に達したのは、約10年前、仙台市教育委員会の依頼がきっかけだった。
「学ぶ意欲を伸ばす方法を考えてほしい」と頼まれたのだ。
「デジタル機器の深刻なリスクを子どもに伝えたい」と語る川島隆太所長=仙台市の東北大加齢医学研究所で
川島は、小中高の子どもの生活習慣と学力に関する膨大なデータを市教委に提供してもらった。朝食を取るか。家族と会話を交わすか…。さまざまな事柄と学力の関係を解析する中で、スマホに注目した。
スマホを長時間使うと、学力が低い傾向がある。相関関係は明瞭だった。
次に、一人一人の偏差値の変化を2年間追った。最も向上したのは、当初スマホを使用していたのに翌年度にはやめた子どもの群。次に向上したのが、2年間使用しなかった群。
逆に低下したのは、2年間使用し続けた群。最も低下したのは、当初は使用していなかったのに翌年度には使い始めた群だった。
川島は言う。「スマホが原因で学力が下がった。約7万人のデータであり、これほどはっきりしたエビデンス(証拠)はない」
◆MRIで観察し続けたら…
では、なぜ学力が下がるのか。謎を解くため、約220人の脳を磁気共鳴画像装置(MRI)で観察し、3年間追跡した。
驚くべき結果が出た。
ネット使用の習慣がなかったり少なかったりした子どもは、物事の認知機能に重要な役割を果たす大脳皮質と大脳白質が順調に大きくなっていた。体積にして約50㏄だ。
しかし、ほぼ毎日使う子どもは、体積の増加がほとんどゼロだった。
「発達が止まった状態で非常に深刻だ。小さな画面で多くのアプリを頻繁に切り替え、一つの物事に集中しにくいスマホの特性が関係しているのではないか」
◆子どもの未来を守るためにブレーキを
こうした研究結果を、川島は「不都合な真実」と呼んでいる。
教委に伝えても、PTAの講演会で親に訴えても、教育になかなか反映されない。「『ネットを使わないのは無理』で終わってしまう。便利さや効率だけを見て、デジタル機器を子どもに安易に与えている」
海外の研究でも、デジタルの負の側面は次々に指摘されている。例えば、スマホを単に所持しているだけで睡眠不足を招き、感情や認知機能に悪影響が出るとの論文。デジタルの読書は、紙の読書に比べて理解が困難との論文…。枚挙にいとまがない。
川島は今、過度なネット利用が遺伝子レベルに与える影響を明らかにしようと、研究に取り組んでいる。「深刻なリスクを子ども自身に伝える教育を、全国に広めたい。子どもの未来を守るため、大人がブレーキをかけなくては」 (臼井康兆、敬称略)
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<連載:ネット依存 コロナ禍の子どもたち>
子どもたちの生活に、デジタル機器が猛烈な勢いで入り込んでいる。健康や学び、コミュニケーションに負の影響は出ていないか。「依存」に陥らない、インターネットとの適切な関係を5回にわたって考える。
①「警察を呼んでくれ」夫は叫び、妻は遺書を書いた 低年齢化するゲーム障害「さらに加速する」と専門家
②「視力がどんどん落ちている」小2で視力は0.2 頭痛に無気力も…子どもを襲う心身の不調
③鉛筆で文字が書けない、考えずに答えを選ぶ‥‥ 急速に進むデジタル学習に高まる現場と保護者の不安
⑤町ぐるみで「スマホ持たせない」…でもデジタル化の波 ネットと上手に付き合うには