現代は内因性うつ病の非定型化と神経症水準のうつ病への注目が大きくなっているかにみえる。
内因性うつ病の非定型化は双極Ⅱ型気分障害、未熟型うつ病(阿部)、逃避型うつ病(広瀬)といった双極性スペクトラム障害である。
神経症水準のうつ病は20世紀後半に登場した退却神経症(笠原)や社会的ひきこもりなどの延長線上の、自我同一性形成の障害を背景にした病態である。
さらに最近は内因性うつ病が増えている。神経症水準の障害とは質的に異なった自我同一性の問題を扱うことになる。
K・アブラハムはうつ病と強迫神経症を比較検討する中で、うつ病における基本的対象関係として、一体化願望をあげている。自立をして自己を体験する神経症者とは違って、対象との一体化を通じて初めて自己体験をするうつ病者特有の心理である。精神医学一般では、同調性と呼ばれる現象の裏で働いている精神力動である。
この違いは性格面でも明確である。
パーソナリティー障害や神経症の基盤になりがちな「神経質」では、優勝劣敗に過敏で、相手(対象)が自分をどう評価しているかが非常に大切である。そのため、この対象関係には緊張があって、ともすれば不安、攻撃、恐怖といった感情が行き交いやすく、それだけにそれらの感情をめぐって葛藤的になりやすい。
メランコリー型性格では、こうした緊張関係はない。自尊心は高くはないし、べきべからずの自我理想が顔を出すことはないので、いわゆる自己愛的傷つきが表面にでることはない。対象との間に緊張関係をできるだけ回避し、同調的な関係での安堵感が一番大切である。したがって、対象との意見の不一致感が一番の心穏やかでない心性ということになるのである。そして、社会性を増して、仕事、社会的活動における一体化が前面に出ると、従来の執着性格にみるような仕事熱心、凝り性といった姿をとることになると思われる。したがって、精神療法においては、同調性といわれる一体化願望をいかに自らの中に再発見させ、それを充足する現実的な方向性を自らのものにさせるかが中心的課題となるだろう。
このような角度からの風景もまた一つの流儀ではある。同じような言葉を使っていても、意味内容にはずれがあるので難しい。