日本のデフレ

知恵を出すときであるというのだが、30年出なかった知恵が出てくるというのだろうか。
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以下、採録。

 経済も投資活動もすべては価格から始まる。価値創造も利益も、安く買って(獲得して)高く売り、価格差を得ることで成り立っている。価格分析は経済分析の根本である。

 このもっとも大事な価格において、日本が悲鳴を上げている。日経新聞記者・中藤玲氏著「安いニッポン『価格』が示す停滞」(日経BP 日本経済新聞出版本部2021年3月8日)は、その驚くべき悲鳴をつぶさに報告している。今や日本の物価は新興国並みに下落しているという現実である。30年前、世界最高の高物価国であった日本の驚くべき凋落である。

 なぜ、このようなことになったのか、どうすべきか、どうなるのか。このことを抜きにして、日本株投資も日本企業の戦略策定も成り立たない。武者リサーチでは、シリーズで「日本デフレ論」を展開していく。

 世界最安のディズニーランドは東京(8,200円)である。カリフォルニア(1万4,500円)はいうにおよばず、パリ、上海、香港よりも安い。

 100円ショップをグローバル展開しているダイソーの税抜き価格を比較すると、日本の均一価格100円は、オーストラリア(220円)、アメリカ(160円)など先進国はいうにおよばず、タイ(210円)、シンガポール(160円)、中国(160円)、ブラジル(150円)、台湾(180円)などの新興国よりも格段に低い。

 「エコノミスト」誌が世界横断で調べた「ビッグマック」単価(21年1月)を見ると、日本の360円(3.75ドル)は、世界最高のスイスのほぼ半分で、韓国やタイよりも低く、先進国では最低である。

 コロナ前、外国人観光客が日本に殺到していた理由は、日本人が手前みそで解釈していたおもてなしや安全・清潔などではなく、安さであると、前述の著者・中藤氏は記している。

技術開発戦線から脱落
 日本の賃金は先進国の水準から滑り落ちてしまった。日本最高の所得地域である東京都港区の平均年収1,217万円は、サンフランシスコでは低所得層に分類されるレベルである。ハイテク技術者の賃金は欧米にはるかにおよばず、韓国や中国よりも低く、日本企業から技術者の流出が続いている。

 NTTでは、35歳までに研究開発人材の3割がGAFAなどに引き抜かれる。かつて中国を外注先として使っていた日本のアニメ業界も、その低賃金ゆえに、今や技術を獲得した中国アニメメディア企業の下請になりつつある。

 このように日本の低賃金、低コストにより、日本は世界の技術開発戦線から脱落しようとしている。

 ネットフリックスの年間制作費がNHKの5倍という現実がある。中国国有企業CITICグループは日本の中小企業14社を買収するなど、日本の技術の種をもつ町工場がアジア国籍となり、新たな販路を見つけて再建されている。日本の金型のトップ企業であったオギハラは、ウォーレン・バフェットも投資している中国トップのEV企業BYDに2010年に買収され、BYDの躍進を支えている。日本の低物価、購買力低下により、日本は国際相場についていけなくなった。日本はアジア諸国に買い負けし、1人あたりの魚介類消費が急減、今や韓国など以下になりつつある。

 中藤玲氏著「安いニッポン『価格』が示す停滞」は、物価下落により先進国から脱落しようとしている日本の現実の報告である。

 「これでいいのだ」「これしかないのだ」「少子高齢化だから仕方がない」などと言っている場合ではないだろう。なぜなら、日本が陥った長期停滞病がとてつもなく深刻だからである。日本の名目GDPが30年間横ばいという事実を直視しないわけにはいかない。これは宿命ではなく、脱却の展望を描くこともできる。政策が知恵を出すときである。