小学校の近くに居住する女性高齢者は、うつが少ない可能性
65歳以上の高齢者13万1,871人を対象に、居住地から最寄りの小学校までの距離とうつとの関連を調査
千葉大学は4月16日、65歳以上の高齢者13万1,871人を対象に、居住地から最寄りの小学校までの距離とうつ(うつ傾向含む)との関連を分析した結果、小学校から離れた距離(800m以上)に住む高齢女性で1.07倍うつが多いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大予防医学センターの西田恵客員研究員、花里真道准教授、古賀千絵特任研究員、近藤克則教授の研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載されている。
高齢者のうつは、公衆衛生上最も重要な問題の一つであり、これまでにさまざまな環境要因や生活要因とうつリスクの関係性が検討されてきた。小学校の近くに住む高齢者は社会的交流や集団活動が多く、幸福度や生活の質が高いことが報告されている。しかし、居住地から小学校までの距離と高齢者の健康との関連を明らかにした研究はほとんどなかった。 そこで研究グループは今回、居住地から最寄りの小学校までの距離と高齢者のうつとの関連を明らかにすることを目的として研究を行った。
女性のみ小学校から800m以上離れていると、近い人に比べて1.07倍うつのリスク高
分析の対象となったのは、日本老年学的評価学研究(JAGES)が要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象に2016年に実施した質問紙調査の回答者のうち、食事、移動、排泄など日常生活に必要な動作に支障のない13万1,871人。対象者の居住地から最寄りの小学校までの道路に沿った距離を算出し、距離別に4グループにカテゴリ化した。
Geriatric Depression Scale(GDS-15)が5点以上となった対象者をうつ傾向にある状態とし、対象者の中でうつ傾向の方の割合を男女別に求め、小学校までの距離とうつとの関連を検証した。解析にあたっては、年齢、教育歴、等価所得、婚姻状況、家族構成、就業状態、持家の有無、居住年数、外出頻度、車の運転、友人・知人との交流頻度、町丁字単位の人口密度を調整し、性別で層別したロジスティック回帰分析を用いた。
参加者のうち、うつ傾向にある高齢者は2万9,781人(22.6%、男性1万4,534人、女性1万5,247人)いることが明らかになった。さらに解析の結果、男性では、小学校までの距離とうつとの関連は認められなかった一方、女性では、最寄りの小学校から400m以内に住んでいる参加者と比較して、400m以上800m未満離れている参加者は1.06倍、800m以上離れている参加者は1.07倍うつのリスクが高い結果となった。
今回の知見が「高齢者にやさしいまち」の設計などに貢献する可能性
今回の研究成果により、小学校の近くに居住する女性高齢者は、うつが少ない可能性が示唆された。その要因として、女性は小学校関連の社会参加の頻度が高く、ソーシャル・キャピタル(人々のつながり)が高い可能性、また小学校近隣環境で小学生との接触頻度が高く、女性の世代継承性が高い可能性が考えられるという。同研究は、高齢者のうつリスクに対して従来検証されてきた生活要因や環境要因以外にも、小学校という環境要因が関与する可能性を、都市部・地方を含む大規模データを用いて定量的に明らかにした数少ない研究の一つと言える。
「同知見は、高齢者の居住環境や日常的に利用する施設(高齢者ケア施設、医療介護施設、集いの場など)の配置検討への示唆やエイジフレンドリーシティ(高齢者にやさしいまち)の設計に貢献すると期待される」と、研究グループは述べている。
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世代継承性は,Erikson(1950)が成人中期の心理社 会的課題として提唱した概念である。 これは,次世代 の成長に深い関心を注ぎ,はぐくみ育てることが,成 人としての成長・発達を促すという相互性を意味する。