生育とドパミンと産業革命と都市住民と精神病軽症化
・田舎に赤ん坊が生まれたとします。赤ん坊は周囲の環境に合わせて、脳内のドパミンなどの脳内伝達物質の調整をします。ドパミンやノルアドレナリンやGABAやグルタミン酸など一連の脳内伝達物質はつながりあって関連していますので、完全に独立した系を形成しているわけではありませんので、ここではドパミンを代表として書いていきます。
・田舎でも、山村のほうがのどかで刺激が少ない感じがしますね。海の街は刺激が少し強い感じがします。八墓村は山の感じ、酒飲んで下駄で相手の頭を殴っているのは海の感じ。性的刺激に関してはどうなんでしょう、人間なのだから、同じくらいになるのでしょうか。南の国ではそう状態が多いような気もしますが、実際に多いのか、環境として伝統的に容認されているだけなのか、よくわかりません。逆に北に行けば、強い酒と関係が強くなるかもしれません。
・そんなのどかな環境で、ドパミン放出10、ドパミンレセプター10として、10*10=100のドパミン効果が表れているとします。
・産業革命以前は、アルプスの少女ハイジのように、田舎に生まれたら田舎にずっと住んで、親や祖父母とほぼ同じような環境で同じような人生を過ごします。
・「置かれた場所で咲きなさい」という渡辺和子さんの本がありますが、植物のように、置かれた場所で、ずっと生活をするわけです。すると、小さいころからの脳内のセッティングでちょうどいいわけです。(「置かれた場所で咲きなさい」というメッセージには異論がありますが、まあ、立場の違いでしょう。そういう意見もかなりあるというのは事実で、そのほうがいい場合も多いとは思います。しかしそれが誰に妥当するのか、見分けるのは簡単ではないと思います。)
・ところが産業革命です。田舎の次男三男は工場労働力として都市住民になります。少女たちも口減らしにあいます。こうした人口移動はイギリスではじまったわけですが、現在では中国で、農村から都市に出かけて就労する、農村に戸籍(戸口)を持つ人、農民工というようですが、いわゆる出稼ぎ農民ですね。こういうことが起こると、田舎から出てきた若者は、都市という情報過多の環境に置かれ、多くは孤独でもあり、親との関係よりも、会社関係の人間の中で生きることになり、しかも、20歳前後の性的に最も敏感な時期を生きることになります。 ドパミンがたくさん放出されます。
・この時の様子は、ドパミン放出20、ドパミンレセプター10と表現できるでしょう。20*10=200のドパミン効果です。脳にダメージを受ける人も現れます。
・多くは被害妄想や幻聴なのですが、現代では、誰かに常時監視されているのは妄想ではなく現実ですし、幻聴といっても、スマホなどを常用していて、小さなイヤホンを使っているとなれば、ほぼ幻聴も現実のものと近いと思われます。個人的には、幻聴は本当は音声要素は少なくて、意味要素だけがダイレクトに伝わっているものと考えていますが、ここでは脇に置いておきます。
・うるさいところに来たな、大変な人ゴミだし、本当なのかウソなのかわからない情報が飛び交っているし、というあたりがドパミン放出20にあたりますので、それに対する生体の反応としては、感度を下げよう、ということになります。レセプター10だったものを、鈍感にして、レセプター5にすればどうか。20*5=100で落ち着いた状態になります。
・重要ではない、いつもと同じ情報については、無視する、ということですね。この調整は自然にできる人も多いのですが、何が重要な情報か、何は捨ててもよい情報なのか、戸惑う人もいるわけです。音声の選択的聴取のことをカクテルパーティー効果といいますが、このようにフィルターを上手にかけているわけです。
・被害妄想や幻聴に対しての治療薬として昔からドパミン・ブロッカーが使われています。ドパミン・レセプターにふたをしてしまう。すると、ドパミン・レセプター5が実現できますから、レセプターを減らさないでも、20*5=100が実現できます。
・ところが、薬剤でふたをした場合には、レセプターは実際は存在していて、薬が中止されると、レセプター10に戻ってしまいますので、本質的に治っている状態とは言えません。本質的に治るには、(1)ドパミン放出10の環境にもどるか、(2)ドパミン・レセプター5に減らすか、が必要になりますが、薬でふたをすると、見かけ上は丁度良いので、生体は、ドパミン・レセプターを減らす意欲を失います。
・さらに問題なのは、薬剤でドパミン・レセプターにふたをしすぎると、一時的にはとても落ち着くのですが、生体は、ドパミン効果が足りないと判断して、ドパミン・レセプターを増やす方向に働きます。つまり、薬剤過剰だと、ドパミン・レセプター2(実際には10あって、8にふた)となり、これでは少なすぎるから、ドパミン・レセプターを5まで増やします。すると実際のドパミン・レセプターは13になって、8つはふたをされ、5が有効に作動しています。この状態で、薬を飲み忘れたりすると、ドパミン放出20で、ドパミン・レセプター13となり、ドパミン効果としては、20*13=260とますます過剰になってしまいます。おやおやこれはまずいというわけで、また薬を増やしたりすることになります。一時的な救命としては仕方ない側面もあります。
・現代社会を考えてみると、のどかな農村といえども、子供たちはテレビ、ラジオ、インターネット、学校における多人数教育などいろいろな刺激の中で育ちます。親の知らないことをすぐに覚えます。ドパミン放出量は過去に比較して著しく大量になっているのではないでしょうか。しかし、このことが、田舎と都会との情報量の格差を縮めていると考えられます。ですから、思春期に都会に出ても、昔ほどのドパミン過剰放出にはならない、つまり、精神病が軽症化すると考えられます。
・以上のことは、精神病の一部について説明できるかもしれないという程度で、当てはまらない部分はかなりあります。精神病にもいろいろあるからでしょう。ドパミン放出量を調整するには実際にはどうすればよいのか、簡単ではありません。情報量を下げればよいというなら、精神科病院の保護室は誠に理想的というべきなのか、不適切というべきなのか、簡単ではないと思います。田舎で農民として生きるならできるのではないかといえば、そう簡単でもないと思います。思春期に都会に行ったから精神病になったというのも過剰な単純化ですね。すべては幼少期のトラウマが引き起こしているとするPTSD説と同じくらいの過剰な単純化です。
・しかし、一部分を複雑な部分は省略して、ざっくりと理解できないか、という試みです。