下書き うつ病勉強会#152 SDAの双極性障害・うつ病に対する効果

双極Ⅰ型障害は明瞭な異常を示す躁病エピソードがあるので、診断に苦慮することは少ないと思います。診断が難しいのは、軽躁病エピソードの同定を必須とする双極Ⅱ型障害です。

軽躁病エピソードの期間は通常、非常に短いとされています。長期観察の研究では、双極Ⅱ型障害患者さんは、約13年間の観察期間のうち、50.3%をうつ状態で過ごし、対して軽躁病エピソードの期間はわずか1.3%だったことが示されています。つまり、私たち医師が診察の場で軽躁病エピソードを目の当たりにする機会は、ほとんどないかもしれないということです。そのため、双極Ⅱ障害の診断のためには、過去の軽躁病エピソードを同定する必要がります。
しかし、定義上、軽躁病エピソードの機能障害は重篤ではありません。重篤でない過去の短期間の変化を証明することはとても難しいことです。しかも、ほとんどの患者さんはうつ状態からの救済を求めて受診し、軽躁病エピソードを元気で異常ではない期間と認識していることが多いので、検出することは容易ではありません。

適切な治療のためには、双極性障害とうつ病を鑑別することが重要ですが、双極性障害の抑うつエピソードの診断基準はうつ病と共通であるため、双極性障害のうつ状態を初診時に的確に診断することは容易ではありません。日常の診療において、典型的なうつ病の病像を呈している方ほど、それ以前に軽躁状態になっていることが多いと感じています。つまり、たくさんのエネルギーを使う生活をして、エネルギーが枯渇した結果うつ状態になったということだと思います。そのため、診察の際は、典型的なうつ病の病像の方であっても、直前の生活状況や、家族歴(遺伝要因)などを必ず聴取するようにしています。

過去の経過を聞くことは双極性障害を疑うためには非常に重要です。双極Ⅱ型障害ないし特定不能の双極性障害を大うつ病性障害(うつ病)から区別する因子として、「反復性の大うつ病エピソード(4回以上)」、「第1度親族の双極性障害家族歴」、「循環気質」、「大うつ病エピソードの初発年齢が若い(25歳未満)」、「抑うつ性混合状態(混合性うつ病)」の5因子を抽出しました。このうち、2因子以上が該当すると、特異度97.5%で双極性障害とうつ病を判別することが可能であることを報告しています。
なお、循環気質というのは、Akiskalらが提唱した感情気質概念の類型で、気分エピソードの閾値未満の振れ幅で気分が頻繁に上下する方が該当します。このような臨床的な特徴群を手掛かりにして、双極性障害の可能性の高さを評定することも診断に近づく鍵になります。

双極性障害の抑うつエピソード治療の難しいところは、多少なりとも躁的成分が混在していることによって、うつ状態が改善しないことに対して他責的・攻撃的になり、「もっと状態を上げて欲しい」と要求する方がいらっしゃることだと思います。過去の軽躁状態を「あの時期の姿が本来の自分の姿だ」と認識している方も多いと思います。特に、過去に抗うつ薬で躁転した経験がある方は、躁状態に対する病識が乏しいと「もっと元気になる薬を下さい」と要求されたりします。

双極性障害に抗うつ薬を処方されているケースは少なくありません。やはり、患者さんは抗うつ薬で気分が上がったときの万能感を経験していると、そこを基準に考えてしまうようです。しかし、その状態の良さは持続せず、抑うつエピソードの再発を繰り返します。しかし、双極性障害は、未治療であれば適切な抗精神病薬を最初に用いることで、多くの方で症状は速やかに改善し、その後の転帰も再発が少なく良好です。

抑うつ性混合状態は、双極性障害ないしうつ病において、抑うつエピソードの基準を満たし、かつ、エピソードの閾値未満の数の躁・軽躁症状が併存している状態像です。つまり、躁症状とうつ症状の両方が同時に起きているということです。混合性うつ病、あるいは混合性の特徴を伴う抑うつエピソードともよばれる状態像です。
2021年の『CANMAT/ISBD双極性障害治療ガイドライン』では、DSM-5で定義された混合性の特徴を伴う双極性障害うつ病エピソードに対する一次治療に関しては推奨される薬剤はなく、二次治療に関してはcariprazine(本邦未承認)、ルラシドンが推奨されています。

双極性障害におけるうつ症状は、躁状態のような精神運動興奮が強い状態ではないので、鎮静系の非定型抗精神病薬を用いると過度な鎮静に繋がる場合があります。しかし、ラツーダは非鎮静系の非定型抗精神病薬であり、「統合失調症」に加えて「双極性障害におけるうつ症状」を適応症として、ELEVATE試験で有効性と安全性が確認されている、エビデンスがある薬剤です。

ラツーダは、鎮静をきたしにくい特徴がありますので、鎮静を避けたい患者さんには有用な選択肢になると考えています。

双極性障害におけるうつ症状に対する開始用量は20mgです。
増量のタイミングについては、ラツーダを使い始めたころは、目立った副作用がなければ2週間ごとに増量していましたが、増量後にアカシジアが出現したケースがありました。そのため、今は、20mgで効果があるようなら20mgを継続し、効果不十分で増量が必要な場合でも、4週間程度は経過をみてから増量するようにしています。

アカシジアが出たら減量も考えられますが、どうしても投与の継続が必要な場合にはベンゾジアゼピン系薬剤を併用するのも選択肢の1つです。

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SDAを双極性障害やうつ病に用いることが一般的になった。もともとシゾフレニーの薬なので、シゾフレニーには効く。

そこで考えるのだが、どうしてシゾフレニーにも効いて、バイポーラーにも効くのか。

(1)シゾフレニーのAポイントに効き、バイポーラーのBポイントに効くとする。分子の形から、そのような作用があるのだと説明される。その場合、シゾフレニーの患者さんのAポイントに作用するのはいいのだが、シゾフレニーの患者さんのBポイントにも作用してしまうはずで、そうすると、シゾフレニーの患者さんのBポイントに対する作用は余計な作用というべきではないか。

(2)同様に、バイポーラーのBポイントに効いて、症状を抑えるのはよいのだが、こんどは、問題ないはずのAポイントにも効いてしまう。それは余計な作用にはならないのか。

(3)診断が不正確で、本来、双極性障害におけるうつ状態に投与すべきであるのに、単極性うつ病の患者さんに投与した場合、何が起こるのか?さらに、単極性うつ病の中で細分化して、たとえば内因性・メランコリータイプに対してはどうか、心因性はどうか。非定型うつ病、産褥期うつ病についてはどうか。たぶんバイポーラリティの程度が強いほど有効であるという返事になるのだろうけれども、その場合は、双極性障害におけるうつ状態のBポイントが、心因性や非定型うつ病や産褥期うつ病では作用ポイントになりえないのか、あるいは作用ポイントになりうるのか。そのようにして区別されるのならば、分類を分けて、細分化すべきだろう。少なくとも、薬剤に対する反応から、双極性障害におけるうつ状態は他のうつ状態と鑑別できるはずだ。

(4)さらに、健常者に投与してしまった場合はどうなるだろうか。何か不都合が起こるだろうか。AポイントとBポイントは健常者の場合どうなっているのだろうか。

いろいろな作用点を持っているというなら、上図のようになる。では、シゾフレニーの場合、Bポイントは、健常者と同様なBポイントということになるのだろうか。また、バイポーラーの場合、Aポイントは健常者と同様なAポイントということになるのだろうか。

本来は、作用点AとBは同じで、それによって、一剤でシゾフレニーにも効くし、双極性障害のうつ状態にも効くと言えるようになるのではないか。作用点が異なるなら、別々の薬のほうが使いやすい。

双極性障害のうつ状態に対してSDAを使ってアカシジアが発生するなどは、余計なことをしている結果の典型である。

薬剤は単剤処方が望ましいと言い続けていながら、SDAなど、セロトニンにもドパミンにも効くなどというのは、セロトニン系薬剤とドパミン系薬剤の併用と同じようなものではないか。病気の根源に効いているとの確信があればこのようなことはいらないはずだ。確信に効いていないと思うから、多剤併用になるのだろうし、一剤でマルチに効くと宣伝することになるのだろう。現状では仕方がないけれども。

各種うつ病については、うつ病とまとめて呼ばれるのだから、何か共通のものがあるはずなのだろう。そしてその共通部分を狙い撃ちするのが真の抗うつ薬ということになる。しかしそのようなことにはなりそうもない。それならばなぜうつ病の項目の中でまとめられているのだろう。将来見つかるはずの共通部分というのだろうか。