中年期の孤独感は認知症のリスク因子
対策を講じることでリスクを軽減できる可能性も示される
常に孤独を感じている中年の人たちは、孤独を感じていない同世代の人たちと比べて、後に認知症あるいはアルツハイマー病を発症するリスクが約2倍高いことが、米ボストン大学医学部教授のWendy Qiu氏らの研究で明らかになった。ただし、孤独感に対して何らかの対策を講じることで、リスクを低減できる可能性も示唆されたという。研究結果の詳細は、「Alzheimer’s & Dementia」に3月24日発表された。
Framingham Heart Studyは、地域住民を長期にわたって追跡している疫学研究である。Qiu氏らは今回、この研究参加者のうち、認知機能が正常な45~64歳の人2,880人を対象に、Center for Epidemiologic Studies Depression Scaleの1項目を用いて、1995~1998年と1998~2001年の間に評価された孤独感を比較した。なお、いずれの調査時にも孤独を感じていた場合は「持続的な孤独」、1回目の調査時に孤独を感じていたが、2回目には孤独を感じていなかった場合は「一時的な孤独」とみなした。その上で、その後18年以上にわたって参加者が認知症またはアルツハイマー病を発症したかどうかを追跡した。
年齢、性別などの個人属性や、社会的なつながり、身体的健康などを考慮して解析した結果、持続的な孤独を感じている人では、孤独を感じていない人に比べて、認知症の発症リスクが91%高いことが明らかになった(ハザード比1.91、P<0.01)。それに対して、一時的に孤独を感じていた人では、孤独を感じていなかった人に比べて、認知症の発症リスクが66%低かった(ハザード比0.34、P<0.05)。この結果は、アルツハイマー病についても同様だった。
こうした結果についてQiu氏は、「孤独から立ち直れる人は、心理学的にいえばレジリエンス(精神的回復力)を備えていて、加齢に伴う脳の変化に適応するのが上手い可能性がある」との見方を示している。同氏はさらに、「孤独を感じたら、積極的に運動をしたり、仲間と出かけたりする人もいる。そういう人たちは、孤独を感じたら、それに対してなんらかのアクションを起こす。それが、1回目の調査時には孤独を感じていても、次回には孤独を感じていなかった理由ではないか」と推察している。
なお、興味深いことに、一人暮らしと認知症発症との直接的な関連は認められなかった。Qiu氏は、「これは、孤独はその人の置かれた状況からではなく、心理状態によってもたらされるものである可能性を示している」と指摘する。
一方、米アルツハイマー病協会のサイエンティフィック・プログラムおよびアウトリーチのディレクターを務めるClaire Sexton氏は、「一人暮らしでも孤独を感じないこともあれば、大勢の人に囲まれていても孤独を感じることもある。孤独感と社会的孤立のどちらが重要なのか、また、どのような介入が望ましいのかを、今後さらなる研究で明らかにする必要がある」と話している。
米メイヨー・クリニックの老年精神科医であるMaria Lapid氏は、「持続的に孤独感を抱いている人たちは、周りの世界との接点が乏しく、社会的交流を通じて精神的刺激を受ける機会が少ない可能性がある」と指摘。その上で、「筋肉は使わないと衰えるが、脳も同じで、使わないと衰える可能性がある。脳の健康を維持するには、頭の体操を続けることが重要だ」と述べている。
さらにLapid氏は、「孤独を感じている人は、誰かに相談することが重要だ。孤独は認知症だけでなく、精神的な健康問題を引き起こす可能性がある。そうなると、生活の質(QOL)や機能にも悪影響が生じる」と述べている。