「ヒロシマ・ノート」大江健三郎、岩波新書F27、1965年

「ヒロシマ・ノート」大江健三郎、岩波新書F27、1965年。
沖縄ノート(1970年)に比較すると、文学者としての熱意がこもった文章と言うよりも、新聞記事の文章にやや近い。読みやすく、意味の区切りごとに脳に格納されて、意味が了解されれば、脳の記憶領域が解放される、そのようなリズムが内在している。長い文章になったときも、脳に負担を強いることはない。
本の前半では、生き生きとしたルポルタージュの文体で、短く区切った意味の単位で、文末を現在形にして、緊迫感を伝えている。本の後半ではやや長い文章になり、思索を読者と共にする文体となっている。

災難・不条理に直面したとき人間にどのような生き方が可能であるか。その側面が一つ。実存的側面。
不条理の原因となったものに対して、その後の世界・人類・各集団がどのように対処してきたか、対処しているかの報告が一つ。政治的側面。

昔自分が読んだ時とはまた読後感が違う。
その後は核は拡散し、様々な不安定要因を作り出している。

2022年の現在、「核」について言えば、2011年3月11日の地震・津波とともに発生した福島第一原子力発電所事故が考察対象となる。
原発の安全性について、また原発から排出される核廃棄物処理について。また原発に代わる発電の方法について。議論は熟さないまま、エネルギー価格の上昇に直面すれば、原発推進の声が上がる。