下書き うつ病・勉強会#43-1 病前性格あれこれ1

循環気質元気な躁状態と抑うつ状態を繰り返す双極性障害になりやすいタイプで、社交的、善良、親切で親しみやすい反面、激しやすいという面をもっています。
執着気質義務感が強く、仕事熱心、完璧主義、几帳面、正直、凝り性などの特徴があります。仕事の質は高いのですが、量がこなせません。仕事を一生懸命完成さるために軽い興奮状態が続いたあと、ガクッときて、双極性障害や単極性うつ病に陥りやすいタイプです。
メランコリー親和型気質常識を重んじ、常に他人に配慮を忘れず、円満な関係を保とうとし、自己の性格だけでなく、他との関係も重視するタイプです。そのため他人の評価が大変気になり、いったん何か問題が起きると、悲観的になって、すべて自分の責任だと考えるタイプでもあります。単極性うつ病になりやすいタイプです。

循環気質
循環気質(cyclothymia)は躁うつ気質とも言われます。講談社の精神医学大辞典によると、「その特徴は、①社交的、善良、親切、暖たかみがある。②明朗、ユーモアがある、活発。③寡黙、平静、気が重い、柔和。このうち①は循環気質の人すべてに共通する性格で、明るく開放的で子供のような無邪気さがあり、誰からも愛される人柄である。逆に言うと、人を冷たく拒絶することが出来ない性格である。②は気分が高揚して、次々にアイデアがわきあがり、活動的である。③は逆に丸みのある、重厚で、穏やかな性格である。②と③はいろいろな程度で混じりあっている」

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分裂気質
講談社の「精神医学大辞典」によれば、「分裂気質とは、①非社交的、静か、控えめ、まじめ、②臆病、恥ずかしがり、敏感、神経質、興奮しやすい、③従順、気立てよし、正直、無関心、鈍感、などの特徴がある。①群は一般的な特徴で、周囲の人との接触がうまくいかず、冷ややか、頑固、形式主義というような印象を与える。②群は神経の過敏さのために、興奮しやすいという特性を持っている。③群は鈍感さを示すもので、決断が出来なかったり、服装などに無頓着であったり、感情の表出が少なかったりすることが含まれる。②群と③群は相反するものであるが、両者が共存するところに特徴がある」

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執着気質
講談社の「精神医学辞典」によれば、「熱中性、凝り性、徹底性、几帳面、責任感旺盛などを特徴とする性格で、1930年頃当時九大の教授であった下田光造によって躁鬱病の病前性格として提唱された。当時はほとんど認められなかったが、今日では内外の学会の承認を得るに至っている」

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メランコリー親和型
メランコリー親和型とは、秩序やルールに忠実であり、非常に献身的であり、頼まれると嫌と言えない、真面目、仕事熱心である、責任感が強いなどの特徴がある。 一般的には、真面目で勤勉なタイプがメランコリー親和型である

追記すると、

うつ病の病前性格として知られているメランコリー親和型の人は、「責任感が強くて秩序を重んじる、他人とは協調してぶつからないようにする」という対他配慮型の性格特性が知られている。

テレンバッハ『メランコリー』では、状況心理学についての項目で、うつ病についての、「インクルーデンツ」の布置と「レマネンツ」の布置について触れられている。

インクルーデンツ(インクルデンツ)Inkuludenz(独)英語では、include=含む。

インクルデンツとは、「封入性」のこと。「封入」というのは、その人の持っている「秩序」とか「ルール」のなかから抜け出せないということ。)「変化に弱い」とか「現状維持したい」とか思う傾向。

新しい状況になってもこれまでのやり方を変えられない。ストレスが増大して鬱になりやすいが、それでもこれまでのやり方を変えない。「これまでの生き方に封入」されているから。

レマネンツとは「負目性」という意味。ドイツ語ではRemanenz英語ではremanent=残留している。

「時間的に遅れを取ってしまった」という負目、あるいは「やるべきだったことができなかった」という感情を指している。

メランコリー親和型で、Anankastisch 成分が強いと、強迫性が強いことになり、「これまでのやり方を変えられない」ことになる。これは強迫性の定義そのままだ。さらに、これまでのやり方の中に閉じ込められているので、やるべきことができなかった、やり残してしまったという負い目につながる。

ついでに言うと、責任感が強いという表現も微妙だ。確かに、自分の任務をこつこつと実行すなければ気が済まないのだが、それは責任感が強いからではない。強迫性が強いからである。責任感というなら、結局、最終的な責任は、時間までに仕事を仕上げることなのであるが、Anankastisch 成分が強い人は、その最終的な目標に忠実であるよりも、自分の仕事の手順に忠実であることがあって、その点では責任感が乏しいと判断される事態もある。たいていの場合は、几帳面に隅から隅まで完璧に片付けるので、責任感が強いと評価されるかもしれないが、実は責任感故にそうしているのではなく、自分の内部の秩序維持のためにそうしているのである。

他人とは境地用紙てぶつからないようにするなどは、Anankastisch 成分と関係がない。自分の内的秩序を保持するために他人とぶつかることはいくらでもあるし、ぶつかられたほうは、なぜそんなにも細かいことにこだわるのか理解ができない。ただ、他人とのことにはあまり関心がなく、自分のやり方で完成することに集中しているので、他人とはぶつからないようにするということもあるのだろう。他人とぶつからず、強調することを第一の価値と考えているわけでは全くない。

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また、メランコリー親和型についてはこんな事情もある。

昔は“抑うつ状態”を内因性うつ病とそれ以外(神経症や反応性など)に二分していた。この内因性の判断が学閥によって違っていた。例えばヤスパースの了解不能を指標にしたり、テレンバッハのメランコリー親和型性格を指標にしたりした。どちらもドイツ流の翻訳文化である。

一方、神経症や反応性抑うつについては、未熟な性格と一括されるような趣であった。それは疾病利得が背景にあるとか、未熟な性格要因が背景にあるなどと考えられた。

暗黙の裡に、よいうつと悪いうつ、人格上等なうつとそうでない未熟な人格のうつなどと分類されたのかもしれない。それは同時に治しやすいうつと治しにくいうつの分類であったかもしれない。もちろん、そのようなことは治療者として考えるはずもないが、無意識の領域を考察すれば、である。

日本ではテレンバッハを論拠に「メランコリー親和型性格が発症するうつ病こそ本来のうつ病、つまり内因性うつ病だ」とも言われるようになった。しかし、テレンバッハの『メランコリー』も、翻訳で意図的に患者の性格を人格として好ましい表現に変更されていて、原文と比較しても、日本で広まった“メランコリー親和型性格”とは相当に異なることが明らかである。

メランコリー型性格は日本でメランコリー親和型性格と訳されて、“勤勉、几帳面、真面目。他者への配慮が行き届いていて、円満な人間関係を保とうとする”性格だと理解された。とてもよい性格のように描かれた。

本来、テレンバッハの記載したメランコリー型性格は、極端すぎる几帳面さのため煙たがられるようなタイプである。しかも几帳面以外にはこれといった長所もなく、帳簿を付けるような仕事には向くものの、融通が利かず、独りよがりと言ってもいいくらいで、ほどよい社会人にはなれない人たちだった。

テレンバッハの著書『メランコリー』に記載されている症例14を引用する。

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女性患者アンゲーラ・Rは、寛解後の診察に際して次のように述べた。48歳の患者は、長年のあいだ7人家族の家計をきりまわし、ふだんは朝の6時から夜の11時まで働いた。衣類はいっさい–服も含めて–自分で作り、自分で洗っていた。その上、彼女は野良仕事もやっていた。1956年からすでに胆嚢の病気が始まっていて、腹の右側にたえず鈍痛があり、時どきは疝痛が起り、そういった症状は仕事をするとひどくなるにもかかわらず、仕事を休もうとはしなかった。完全に疲れ切ってしまう一歩手前のところまで来ることもよくあったが、それでもまだ一度も休暇をとったことがなかった。《朝計画したことを済ませてしまわないと、自分で気持ちが悪いのです》。何かやりかけで残っているようなことがあると、《明日の朝はいつもより早く起きて、残った仕事を片付けてしまおう》と自分に言いきかせるのだった。何事につけても、彼女はできる限りきちんとしていた。《できればもっときちんとやりたいと思うことがいくらもあります》。人から《そうやって置いておいたらいいじゃないか、なにもそんなにきちんとすることはないじゃないか》といわれることがよくあった。

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日本で広まった“メランコリー親和型性格”とはかなり違う。

そもそも、テレンバッハの対象としたのは入院した重症のうつ病である。日本の外来の“メランコリー親和型性格のうつ病”とは違う。日本のうつ病はテレンバッハを意図的に読み替えて、有力者が広めて、あるいはそれでその人が有力者になり、結果としてみんなが従った。

“メランコリー”の読み替えが広がった原因には時代背景があるとしばしばいわれる。これもまたみんなが当然と是認している説である。だから幻であるかもしれない。当時の日本は高度経済成長の時期であり、都会の企業は終身雇用制でもあり、みんなで一丸となって頑張ればそれだけ報われた非常に特殊な時代だった。多くの都会人が(後天的な)メランコリー親和型性格を身に着けて仕事をしていた。結果的に、このタイプのうつ病が中心に据えられたため、そうでない性格の患者さんが発症するうつ病は「本物ではない」というレッテルを貼られた。確かに、メランコリー親和型性格と比較すると、その他の人たちは未熟な性格であると言えるのだろう。社会的地位や収入の面でも、メランコリー親和型性格の人たちは有能で裕福で偉い人たちだった。

「反応性ではない、本当のうつ病とは何か? 内因性うつ病とはなにか?」という問いの答えを日本の精神医学は探していて、丁度良い時期に“メランコリー親和型性格”に出会ったと言える。ドイツではさして重要視されていないと報告した人もいた。

抑うつ状態の分類は以前から論争が絶えず、現在も迷走している。DSMも改定のたびに、根拠に乏しいことを試みて批判され、次はさらに変更を加えて、試行錯誤が続いている。そのあたりのことを学者さんは論文に書いて、進歩はないままに論文数は増えてゆく。医学というより歴史散歩の趣であり、隠居仕事に丁度良いらしい。

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ついでなので有名な性格論の復習

パラメータ(因子)またはディメンションの組み合わせで表現するのが特性論。カテゴリ(タイプ)に分類するのが類型論(タイプ論)。
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クレッチマーの類型論
躁うつ気質・循環気質(同調性気質) 社交的、融通が効く
分裂気質(内閉性気質) 非社交的、敏感かつ鈍感
てんかん気質(粘着性気質) 几帳面、融通が効かない
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シェルドンの類型論
内胚葉型(肥満型) 内臓緊張型 社交的、生活を楽しむ
外胚葉型(やせ型) 頭脳緊張型(神経緊張型) 非社交的、過敏
中胚葉型(筋肉型) 身体緊張型 活動的、自己主張
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ユングの類型論(タイプ論)は、以下の3つの軸で表現されている。

内向-外向(一般的態度)
思考-感情(合理機能)
感覚-直観(非合理機能)
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内向-外向の態度については、リビドー(心的エネルギー)の向い方向による違いである
2つの態度と4つの機能の組み合わせにより、合計8つの類型(タイプ)で性格診断などにも用いられる。

内向的思考タイプ・・・例えば、哲学者
外向的思考タイプ・・・例えば、研究者
内向的感情タイプ・・・例えば、瞑想家
外向的感情タイプ・・・例えば、演説家
内向的感覚タイプ・・・例えば、夢想家
外向的感覚タイプ・・・例えば、職人
内向的直観タイプ・・・例えば、芸術家
外向的直観タイプ・・・例えば、発明家

4つの機能は、いずれかの機能(優越機能)が意識に現れており、対極となる機能(劣等機能)は無意識に追いやられている。
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シュプランガーの類型論(タイプ論)は、以下の6つの類型(タイプ)に分類される。

理論型・・・客観的な視点から、論理的に考え、真理を追求する
経済型・・・利己的な観点から、損得勘定で考え、利益を追求する
権力型・・・支配的な欲求から、勝ち負けで考え、地位を追求する
審美型(芸術型)・・・美的な感性から、感覚的に考え、美を追求する
宗教型・・・精神的な目線から、超自然的に考え、神秘を追求する
社会型・・・協調性の重視から、献身的に考え、愛情を追求する
これは、シュプランガーの6つの価値観とも呼ばれる。
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オールポートの特性論は、以下の2つの特性に分けて考える。

共通特性・・・他者と比較できる特性
個人特性・・・他者と比較できない特性
他者と比較できない個人特性ではなく、他者と比較できる共通特性を用いて比較しようとした。
性格や人格(パーソナリティ)を、他者との比較によって、共通特性と個人特性に分けて考えたもの。
重要な特性(因子)は、言葉(言語)として表現できるはずだと考え、辞書などから語彙を抽出してまとめた。(語彙仮説・辞書仮説)
カテゴリ(タイプ)に分類する類型論(タイプ論)とは異なり、パラメータ(因子)の組み合わせで表現するのが特性論。

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アイゼンクの特性論は、以下の2〜3つの特性(因子)に分けて考える。

向性(内向性-外向性)
神経症傾向(安定-不安定)
精神病傾向

内向性-外向性と神経症傾向の、2つの特性(因子)によって診断される心理テスト(質問紙法)として、モーズレイ性格検査(MPI)がある。
精神病傾向を加えた、3つの特性(因子)によって診断される心理テスト(質問紙法)として、アイゼンク性格検査(EPI)がある。
アイゼンクは、特性の水準を経由して、類型(タイプ)の水準に至るとして、類型論と特性論を統合しようとした。(4層構造モデル)

特殊反応(個別の行動傾向)
習慣反応(集積された行動傾向)
特性(性格因子)
類型(性格分類)

パラメータ(因子)の組み合わせで表現する特性論のひとつ
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ビッグファイブ理論・Big5理論(特性5因子モデル)
オールポートらが進めた語彙仮説(辞書仮説)がもと。
ビッグファイブ理論は、以下の5つの特性(因子)に分けて考える。(特性5因子モデル)

神経症傾向(N)/否定的情動性・・・内面の安定性、傷つきやすさ
外向性(E)/肯定的情動性・・・外界への積極性、社交性
開放性(O)/知性・・・新しいことへの前向きさ、好奇心
調和性(A)/協調性・・・周囲への同調性、共感
誠実性(C)/勤勉性・・・行動への責任感、真面目さ

中でも、コスタとマックレーによって開発された心理テスト(質問紙法)に、「NEO-PI-R(Revised NEO Personality Inventory)」がある。

パラメータ(因子)の組み合わせで表現する特性論
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クロニンジャーの7次元モデル
クロニンジャー(Cloninger,C.R.)は、パーソナリティの構成概念を「気質」と「性格」に大別し、気質を生理的・遺伝的なものと対応させている。パーソナリティが、遺伝的要因と環境的要因からなる事を説明した。
このモデルを基に、性格検査TCI(Temperament Character Inventory)が作られている。

「気質」の特性次元として
気質は、「新奇性の探求」(ドーパミンと関係)、「危険回避」(セロトニンと関係)、「報酬依存」(セロトニン・ノルエピネフリンと関係)、「粘り強さ」(セロトニンと関係)の4つの次元を持つ。
「性格」の特性次元
性格は、「自己志向」、「協調性」、「自己超越」の3つの次元を持ちます。

ドパミン、セロトニン、ノルエピネフリンとの直接の対応は調子に乗りすぎたと思ったのか撤回したようでもあるが今でも製薬会社のパンフレットに書かれていることがある。

性格の特性次元として3つが挙げられているが、いかがわしい。

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パラメータ(因子)をきちんと測定できるなら、ディメンション的性格理解もよいのだが、測定できない。

また、類型論で言えば、どのくらいの類型があれば必要十分なのか、まったくはっきりしない。ある患者さんがどの類型に属するのか、心理測定ができないのだから、判定しようがない。

それでも何とかうまくいっているような思えるのは、仲間内でのここ最近の伝統的了解事項だからである。外部の知性のある人間には理解されないだろう。葬式仏教でいう念仏のようなものである。