1. パーキンソン病とは
中年から高齢期に、中脳黒質から線条体に投射するドパミン神経細胞が進行性に変性減少するため、動きが緩慢になる病気です。
患者さんは歩行速度の低下、ふらつき、前傾姿勢、加速歩行、書字困難などの症状で動きの悪さを自覚します。静止時に手足が震えることが特徴ですが、必ずしも震えがあるとは限りません。近年では、これらの運動症状だけでなく、抑うつ・不安・便秘・頻尿・嗅覚障害・レム睡眠行動異常(夢の内容にあわせて、声を出したり手足を動かしたりすること)・肩や腰の痛みなどの非運動症状といわれる症状が運動症状に先行することいわれています。つまり消化器科、精神科、泌尿器科、整形外科、耳鼻科などの診療科を最初に受診することがあります。運動症状を見逃さないことが早期診断にとって大事であり、動きの悪さや姿勢が悪いことを年のせいと決めうちしないことが必要です。
診察のポイントは、簡単な歩行を確認することです。歩くときに(特に片方だけ)腕を振らずに歩くことを確認できれば、パーキンソン病を疑うきっかけになるでしょう。
2. パーキンソン病の診断
パーキンソン病の診断は、動作緩慢の病歴と診察を行うことに加え、非運動症状の病歴聴取を行うことを徹底します。
診断をより確実にするため、当教室では画像検査を行います。パーキンソン病においては、脳CTやMRIでは形態学的には正常所見であるのに対し、形態学的異常が認められる他のパーキンソン症候群(多系統萎縮症など)を除外する目的で撮影します。
パーキンソン病では形態学的な異常は認めにくいですが、機能的異常を呈する患者は多いことから、当教室では核医学検査を積極的に行っています。①ドパミントランスポーターシンチグラフィを用いると、線条体ドパミン神経脱落を可視化できます。②心臓交感神経シンチグラフィを用いると、心臓での交感神経節後繊維の脱落が見られます。③脳血流シンチグラフィを用いると疾患に特徴的な血流パターンを観察でき、認知機能低下などの症候も予測できます。
これらの画像検査を組み合わせることで、診断を高めるだけでなく、患者さんやご家族への病気の説明に役立ちます。パーキンソン病は慢性疾患なので、長い療養生活を送ることから、確実な診断が大事です。
先にも述べたようにパーキンソン病は自律神経障害や認知機能障害、疼痛などの非運動症状を伴うことが少なくありません。当教室では、自律神経検査や神経心理検査など詳細に行い、専門家が評価します。非運動症状にも目を配る細やかな治療がパーキンソン病には必要なのです。
3. パーキンソン病の治療
パーキンソン病の治療は、初期にはL-ドパを主体とした治療を行っていきますが、発症5年以上経つと薬の持続時間が短くなったり(ウェアリングオフ現象)、効き過ぎて不随意運動(ジスキネジア)が出現してくることがあります。これら「運動合併症」は、患者さんの生活の質を著しく低下させます。当教室では、運動合併症への対策として新規薬剤を含めた内服薬での治療を推進します。
内服薬だけでは太刀打ちできなくなった場合にも、機械を用いた治療(device aided therapy)に、相談に応じて行う事ができます。これには脳神経外科と共同で行っています、脳深部刺激療法と内視鏡センターと共同で行っていますレボドパ・カルビドパ経腸用液療法があります。
いずれも運動合併症があり、L-ドパの効果が明らかであることが適応の必要条件です。
脳深部刺激療法は視床下核や淡蒼球に刺激電極を、前胸部皮下にバッテリーを植え込み、1日の中で動きの悪くなる時間を減少させます。
レボドパ・カルビドパ経腸用液療法は胃瘻を造設し、カテーテルの先端を十二指腸に留置し、レボドパ・カルビドパ溶液をポンプを用いて一定速度で注入し、切れ目ない薬の投与を実現できるようになるシステムです。
いずれの治療法も専門科の多職種連携を行い、集学的に治療を行っています。