SLEについて

SLE概略

全身性エリテマトーデス(SLE)は、自己抗体産生と免疫複合体の組織沈着による全身の臓器障害を特徴とする原因不明の予後不良な全身性自己免疫疾患です。SLEの日本人での発症率は10万人当たり30-50人と比較的稀な疾患ですが、20〜40歳の女性に好発(男女比1:9)するため、多くの患者さんにとって疾患のコントロールはもちろんのこと、妊娠・出産も非常に重要なテーマとなっています。近年の治療の進歩に伴いSLEの予後は改善してきていますが、ループス腎炎と神経ループスは未だに予後不良な臓器病変です。日本においても、近年次々とSLEに対する承認薬が増えて来ており、また、2019年には日本リウマチ学会から本邦初のSLE診療ガイドラインが発表され、今後のSLE治療のさらなる発展が望まれるところです。

SLEの病因

古くから、SLEは薬剤や紫外線などの環境因子、性ホルモン、遺伝的背景などが複雑に絡み合って起こると考えられてきました(1)。GWAS (genome wide association study)により、近年様々なSLE疾患感受性遺伝子が発見されています。それらの中でもとりわけ、炎症性サイトカインの一つであるⅠ型インターフェロン(IFN)経路を中心とした自然免疫系の経路の異常が注目されています。実際にSLE患者では、血中のⅠ型IFNが他の膠原病患者或いは健常者に比し増加しており、SLEの疾患活動性とも相関することが報告されています。現在、それら自然免疫系のシグナルに関わる分子をターゲットとした様々なSLE治療薬が開発中です(図1)(2)。

図1

図1

SLEの診断

SLEは臨床症状が非特異的かつ多岐にわたり、検査所見や病理所見などにゴールドスタンダードも無いため、いわゆる診断基準を作ることは困難です。多くの医師がSLEの診断の拠り所とする米国リウマチ学会(ACR)のSLE分類基準(1997年改訂、図2)(3)も、あくまで分類基準であって診断基準ではありません。分類基準とは本来、臨床研究や疫学調査などのために均一な患者群を分類するための基準であり、診断をつけるための基準ではありません。このため、経験豊富な専門医間でもSLEの診断に至るまでのストラテジーに差があることがしばしば見受けられます。この問題を解決すべく、感度・特異度ともに高い分類基準を作る試みは長年行われており、2012年にSLICC (Systemic lupus international collaborating clinics)から新たなSLEの分類基準が発表されました(4)。詳細は割愛しますが、臨床症状として「脱毛」が追加となり、検査項目では低補体血症が追加されるなど、より実際に我々が遭遇するSLEの臨床像に近づきました。しかしながら、その後行われたACR分類基準とSLICC分類基準の精度を検証する研究では、SLICC分類基準は感度ではACR分類基準より優れているものの、特異度では同じかむしろ低いという検証結果となりました。そしてACR分類基準とSLICC分類基準の感度・特異度を上回るべく2019年にACRと欧州リウマチ学会(EULAR)が共同で新分類基準を作成しました(図3)(5)。新分類基準はスコアリングシステムを採用しており、抗核抗体≧80倍、他疾患で説明のつかない臨床項目が1つ以上あり、スコアが合計10点以上でSLEに分類されます。臨床項目では早期SLEに付随しやすいと言われている「発熱」が新たに加わったことが特徴です。この新分類は、2012年のSLICCと同程度の感度、1997年のACR分類基準と同程度の特異度と言われていますが、 これまで以上に臨床研究寄りの分類基準のため、日常診療においてSLE診断の補助ツールとして用いるには煩雑です。ACR/EULARも、この新分類基準を診断目的に用いるのは好ましくないとしています。以上から、SLEの診断には、SLICC分類基準やACR/EULARの新分類基準を参考にしつつも、感度・特異度ともにバランスの取れたACR分類基準を用いるのが現実的と思われます。

図2 1997年改訂 ACR分類基準(文献3より筆者和訳)

図2 1997年改訂 ACR分類基準(文献3より筆者和訳)

図3 2019年 EULAR/ACR分類基準(文献5より筆者要訳)

図3 2019年 EULAR/ACR分類基準(文献5より筆者要訳)

SLEの治療薬

本邦におけるSLEの治療では、欧米で承認されている薬が日本ではなかなか承認が下りない、いわゆるドラッグ・ラグが長年問題となっていました。しかし最近になり、2015年にヒドロキシクロロキン、2016年にミコフェノール酸モフェチル(MMF)、2017年にベリムマブがSLE(MMFはループス腎炎)への使用が承認され、欧米のSLE治療ガイドラインと同等の治療が保険適応内で行える環境が整いました。SLE治療のアンカードラッグは未だに副腎皮質ステロイド(PSL)であることに変わりはありませんが、こうした免疫抑制薬や分子標的治療薬を臓器障害に応じて適宜組み合わせることにより、PSLの副作用を抑えつつ低疾患活動性、さらにはPSL中止を視野に入れた寛解を目指すことが可能になりつつあります(後述)。また、冒頭で述べた、Ⅰ型IFN(レセプター)に対するモノクローナル抗体を始めとした自然免疫系のシグナルをターゲットにした新規SLE治療薬の治験も進行中であり、今後さらに治療の選択肢が増えることが期待されています。 

SLEの治療戦略 〜目標達成に向けた治療(Treat to Target)〜

治療薬の進歩とともに大事なのは、疾患に対する治療戦略です。Treat to Target(T2T)という概念は、具体的な数値・治療目標を設定し、そこに向けて診療を実践するものです。身近なところでは、高血圧や糖尿病などの慢性疾患の治療においてT2Tを実践することで心血管イベントの抑制や長期予後の改善につながることが示されています。膠原病領域では関節リウマチにおいてDAS (disease activity score)という疾患活動性指標を用いたT2Tを実践することで、関節破壊などの構造的変化の抑制や患者の長期的QOLの改善に寄与することがわかっていますが、SLE治療では長らくT2Tがありませんでした。2014年にVollenhovenらによりSLE初のT2Tとして、長期の生存、臓器障害の予防、健康関連のQOLの向上などを達成すべく、SLEの疾患活動性を抑制し、「寛解」(図4)を目標とすることが提唱されました(6)。しかしながら、SLEの実臨床において「寛解」を達成することは容易でない場合も多く、2016年にFranklynらにより「低疾患活動性」(Lupus Low Disease Activity State (LLDAS))が新たに定義されました(7)。そしてFranklynらは、LLDASを達成・維持することで、再燃と臓器障害の蓄積を抑制できることを示しました。さらなる検証が待たれるところではありますが、SLEの日常診療においては、まずはLLDASを目指し、可能であれば寛解を目指すというのが今後の治療戦略になると思われます。

図4 SLE T2T(文献6より筆者要約)

図4 SLE T2T(文献6より筆者要約)

図5 SLE LLDAS(文献7より筆者要約)

図5 SLE LLDAS(文献7より筆者要約)

SLEと妊娠

SLEは圧倒的に女性に多い病気であり、患者さんが安全に妊娠・出産ができる環境を整えることはとても大切です。SLE患者さんが妊娠するには最低でも6ヶ月はSLEが落ち着いていることが望ましいとされています。また、前述した免疫抑制剤には催奇形性などの関係で、妊娠中の使用は禁忌な薬剤もあるため、妊娠に際して薬剤の変更などの必要性もときに生じます。SLE患者さんでは、流産や不妊の原因となる抗リン脂質抗体症候群の合併や、胎児心ブロックに代表される新生児ループスのリスク因子である抗SS-A抗体陽性例も多く、また何より妊娠により母体のSLEの病勢が悪化することがあるため、膠原病内科、産婦人科、小児科が連携して診療に当たる必要があります。